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「……クロカワ。お前、そりゃあ、でもよう、お前にだって幸せになる権利ってのはあるんじゃねえのか?」  工場長がぽつりと言った。それに彼は首を振る。 「皆さんが思うほど、俺はできた人間じゃあないですよ。工場長には拾っていただいた恩があります。でも、それは俺が受けて良い話じゃないと思うんです。ですからその話、どうか流してやってもらえませんか」  休憩時間が過ぎ、彼は工場長へ深々と頭を下げると自分の持ち場へ戻っていった。その背にかけられる言葉は無かった。周囲にあったのは、おそらく気まずい空気だけだった。  その日の作業は滞りなく進んだ。終業の鐘が鳴り終えると、昼頃あった気まずさを忘れた同僚達が一杯どうだと誘ってきた。いつもの事らしいそれを彼はいつものように断って帰路に着く。  付き合いの悪いやつだと言われることもあるようだが、彼は気にしていなかった。  親しくする相手を作ろうとは思えなかったと彼はいう。  縋り頼れる者も無く、生きる希望となり得た者も失った。親しく付き合う相手を新たに見つけられたらよかっただろうにそれもない。  その彼が、どうして今の今までを、生き続けて来ようと思えたのか。  それは――。 「あいつが死んだ原因全て潰すまで、俺にはそんな、幸せになる権利なんか無くて良いんだ」  声に出さない小さな小さな呟きで、彼は自分に言い聞かせる。その手元には、何やら怪しげな小型の機械が握りしめられている。 「膨れ上がった強欲さと傲慢さが不幸を生む。……その膿を出して、腐った腹の内を暴くきっかけを、俺が作ってやるんだ。じゃなきゃあいつが浮かばれないだろう」  そう彼は、失った幼なじみの復讐を果たすためだけに生きてきたのだ。  そしてそれは既に実行に移されていた。  タマノクラの街を騒がせている、爆発事件として。 「でも、それももうすぐ終わる。あと少し、……あと少しだ」
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