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「どうしてそんなこと今まで黙っていたんだ」
兄に詰められ、シロヤマはあっさりと返した。
「証言はしましたよ、もちろん。でも綺麗に握りつぶされたみたいですね。兄さんのその様子じゃ、調書は残っていないのかな」
「嘘だろう……」
呆気にとられる兄を余所に、シロヤマは続けた。
「ですのでこの件、僕の他にもこの事実を知った方がいて、警察は当てにならないし、それなら、と。亡くなった方か失ったものへの復讐で今の事件を起こしているんじゃないかと僕は考えていまして……」
亡くなった者がそれを望んでいるのか。失ったものがそれで返ってくるのか。そうはならないというのに無駄なことだとシロヤマは呟いたが、その目の前にいる兄は複雑な顔でそれを見ていた。
「……皆が、お前のように前向きに思い、そう言えたら良いのだがな」
「あ……。すみません、僕はっ……」
「気にするな、お前は正しいよ。私も復讐を肯定する気は無い」
シロヤマの兄というならば、この警官もまたあの事故で父母や知人を亡くしている一人ということだ。事実を知って腹の底に怒りや憎しみを僅かでも生じさせなかったかと言えば否となるだろう。
そう思わぬ、感じぬ方が稀なのだ。
「だが、いくら死者が出ていないとはいえ、これ以上何かの被害が起きてしまうのは警察に属するものとしては看過出来ん。……ハイヌマとロクセン、その二つをこちらでも注視してできうる限り警戒を強化させよう」
「お気を付けて。――あ! それなら僕からひとつお願いがあります。聞いて貰えないでしょうか」
元から幼さの濃い童顔が、ぱっと末っ子らしい顔に変わる。良いことを思いついたという目を向けて、シロヤマは兄に懇願する。
「ああ、どうした?」
「僕にも、その監視手伝わせてもらえませんか。警官がうろつくよりも相手に警戒されないでしょう?」
探偵業の自分なら警察の上とやらからも隠れて行動できる。自信満々にそう告げて、シロヤマは胸を張った。兄は若干引き気味に、それでも笑って年の離れた末っ子に肯いて返した。
「……こちらの領分を侵さないのであれば、好きにしなさい」
「ありがとうございます!」
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