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 忘れる訳もないその声は、実母を亡くし周囲の大人に信頼を置けない暮らしの中にあった幼き日のクロカワに、ただ唯一の居場所を与えた声だった。鈍くなった聴力でも、声変わりで音域は変わっていようとも。すぐにそれとわかった。  一方幼さは消えたその顔にはっきりと刻まれた傷跡は、シロヤマの記憶を過去へ一気に引きずり戻した。 「その、額の、傷跡……」  随分前の話だ。歳は八つになってすぐくらいだっただろうか。シロヤマには、社交場で知り合った同年代の子供がいた。  その子供は、数年前、シロヤマの実家近くにもう一つある豪邸に引き取られた子だった。  近所にいるという事が余計に気に食わなかったのか、当主であるシロヤマの祖父が毛嫌いしていた相手の、さらに庶子だと言う事で、あまり仲良くするなと釘を刺されていた。相手の子供もまた、距離を取るよう言われていて、警戒していたはずなのだが。  出会ってしまったのだからしかたない。  同年代と馴染めず、遊ぶにしても学ぶにしても大人の社会と都合で振り回される子供の前に、大人の忠告など無意味だった。  必要以上に個人を探ろうとせず、読んでいる本の話や知っている雑学などを話すシロヤマと、子供らしく野を駆け虫を捕り、器用な手先で小物など作ってみせるその子供は、一見すれば正反対ではあったけれど、それが不思議と噛み合ったのだ。  指摘と小言と命令ばかりの大人たちの目を盗み、子供らはひっそりと友情を育んできた。  シロヤマの屋敷の無駄に広い敷地内にあった古い物置小屋の中に秘密基地を作り、現実から逃げ出したいときはそこで長く共に過ごした。たまにのようにいうが、ほぼ毎日だったように思う。  本を読んだり、何かを作ったり。時には大人に言えぬ少々危ない遊びもしてみたり。  二人でいるのは居心地が良かった。無二の友だと言い合うことに抵抗など無かったくらいに。 「……まさか、あの、きみなのか」
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