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「いやあ、駄目元でも頼って良かった。戻らなかったらどうしようかと思っていたんだよ。ありがとうよ、シロヤマさん」
古い応接セットがどかんと居座る狭い部屋。
何を記しているのかさっぱり不明な文字が書かれた書物が並ぶ大きな書棚に、こちらも年季の入った事務机。
らしいな、と思わせるその部屋で、にこやかに礼を述べた身なり恰幅の良い老年の男の懐には、こちらも、いかにも、と思わせる毛艶の良い小さな三毛猫が収まっていた。
「この娘は外なんて出たことのない子だから。女中がうっかり外へ出したと聞いたときにはもう、血の気が引いて引いて……。何てことをしてくれたんだと、女中には即暇を出してやったとも。ああしかし、戻ってくれて本当に良かった」
涙声で傲慢なことを言う肥えた男は、何よりも大事そうに猫を抱きしめていた。
「いえいえ、すぐに見つけられたのはお嬢様の賢さゆえでしょう。私が探していることをご理解して貰えたようで、素直に出てきてくださいましたよ」
「ははは、上手いことを言う。だがそうだな、この娘がとても賢いことには間違い無い」
「また何か困ったことがあればお気軽にご相談くださいませ。探偵業は始めたばかりだから、依頼が増えてくれるとこちらもありがたいのです」
「ああ。それなら知り合いにも紹介しておいてやろう。最近は物騒な話もあるからな、当てにならない警察よりもあんたのような者の方が役に立つこともあるかも知れん」
「ありがとうございます。そう言っていただけたら光栄ですよ」
謝礼を受け取って、そりゃあもう良い笑顔を客に向けて客を見送った新米探偵。シロヤマと名乗るこの男。
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