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「お前は、何故ここにいる。警官にでもなったのか。公僕になんかならなくたって、お前は充分生きていける身分だったろうに」  低い声だ。過去の記憶にある彼がこんなふうに威嚇を向けるのは、信用にならない大人にだけだった。つまり、悲しいかな今対峙する相手は幼なじみの枠から外れた信用ならぬものということだ。 「僕は、探偵業に就いたんだ。今日ここにいるのは爆発事件の捜査協力で中に入らせて貰ってる。まさか、……きみこそ、どうしてこんなことを」  シロヤマが苦しげに尋ねてきた。 「あの船にいた時一緒に聞いただろ。あいつらはあの事故をさらに悪化させて、あの時俺の親友を殺した。これはやつらに対する復讐だよ。ずっとそればかり考えて暮らしてきたんだ。こうすることだけが、俺を生かして来た!」  だから止めてくれるなと、彼は叫んだ。 「そんな。でも僕は生きてるよ! たとえあの日僕が死んでいたとしても、きみにこんなことをして欲しいとは望まなかった! きみだって、こんなことをするような人ではなかっただろ!」 「勝手に理想の友人像を作るな。俺はここにいる俺だけだ! お前の中にあるものは幻想で、都合の良い子供の俺だろう!」 「それはきみも同じ事じゃないか! きみが今の今までやってきた復讐で、私がそう望んでいるからと責任を幻想の僕に背負わせた事が無いとでも言うつもりか」  両者の怒鳴り声が舞台に響いて、すぐに沈黙が落ちてきた。  諦めに近いため息と共に彼は笑って見せた。 「……その通りだ。俺はずっと、お前が復讐を望んでいると都合良く自分に言い聞かせてきたよ。まさか生きていたなんて。もっと、ちゃんと調べていたら良かったのに」  調べるにしてもそんな伝手すら残されていなかったが。彼は言って、踵を返した。
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