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「もうすぐ仕掛けた爆薬が起爆する。火を噴く爆発にはならないけど、この古くさい建物が半壊するくらいの破壊力は持たせてある。……巻き込まれたくないなら、お前もさっさとここを離れた方が良い」 「逃がすのか。きみの顔を見た僕を」  シロヤマが追うように舞台へと駆け寄った。客席に足元を邪魔されて思うように進めない僅かの差で、クロカワは潜り戸へ向かう。 「構わないさ。お前が生きているなら、俺のしてきたことはもう意味を持たなくなったから」  どの道今日でもうおしまいにするつもりだったからな。彼はそう言うと潜り戸を潜ろうとする。  その背を、がたがたと客席に乗り上げ跳び越え、駆けつけたシロヤマが掴んだ。 「おしまいってどういうことだ! まさかきみ、このあと死ぬつもりだったとでも言うつもりじゃないだろうな!」  明かりは投げ捨てられていて、暗くなったそこでは顔はよく見えなかった。それでも微かに見えるシロヤマの表情は泣き出しそうに歪んでいる。襟を掴んだ腕が丈の合わないスーツの裾から伸び出して、火傷の痕を覗かせていた。 「させないぞ。そんなこと! 僕はきみが死んだと聞かされてからずっと、寂しくて悲しくて苦しかったんだ! 実の父母が死んだことよりも! 探偵業についたのも、そういう思いをする人が一人でも減るようにって思ったからなのに! なのに何で、何でまたどこの誰でも無いこの僕自身が、またきみを失うなんて思いをしなきゃならないんだ!」  生きていてくれたのにまた失うのか。シロヤマは駄々をこねるように叫ぶ。 「夢でも見たと思って忘れてしまえばいいじゃないか! ああ、もういいから離せ! 逃げろって言っただろ! 本当にそろそろ起爆するんだ!」  クロカワも焦って叫んで返した。自分一人逃げ遅れて巻き込まれても構わないが、誰かを巻き添えにするのは意に反するのだ。 「いいから、お前は逃げろ!」  掴んだ腕を逆に引き込み、シロヤマの身体を潜り戸の奥へ放り投げた。その先から真っ直ぐ、薄らと明かりの差す方へと向かえば外に通じる。  真っ直ぐ走れと指示を出して。  その直後。  大きな爆発音が足元に響いて、連鎖するようにあちこちがきしみ始めた。  見た目の造りは良いように見えるがやはり古いものは古い。屋根を支える支柱を折ったのか、舞台の屋根がゆっくりと傾き始めた。遅れてきな臭い匂いが漂い始めた。爆ぜた電線から散った火花が、何かの燃料か機械油にでも付いたのかもしれない。  シロヤマは外に出ると、傾く劇場を呆然と眺めていた。  その夜、彼の姿を見つけ出すことは出来なかった。
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