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「うん? あれ、きみじゃなかったの? 僕はてっきりきみが投書したんだとばかり思ってたけど。じゃあ、僕らの他にも十三年前の事件の真相を知ってた人がいたってことかー」 「しらばっくれて……。俺じゃなかったらお前以外に誰がいるんだよ。……お前、このまま爆発事件の犯人はうやむやにされると思ってるのか」  そう言ってソファに座る彼、クロカワは、少しだけ肩を強張らせていた。 「なるんじゃないかな。……お陰であっちはもう、きみのこと探す余裕ないみたいだし」  どうして彼がここにいるかというと、少し時を遡らせる。  僕、シロヤマが思った通り。彼はあの後仕事を辞め、借り住まいの部屋を引き払い、何もかもを片付けるつもりでいた。そう、言葉通り何もかもを。  そうはさせなかったけどね。    シロヤマは、俺、クロカワが起こした事件の翌日までに、住居も仕事も名前もなにもかも調べ上げ、早朝一番で俺の目の前に現れた。  犯人を追い詰めた探偵。絵づらで言うなら完璧なシチュエーションだ。その後は犯人が警察に連れて行かれてお終いになるのが定番のはずだったのに。 「ねえきみ。これは一晩かけて考えた僕からの提案なんだけど。やったことを気に病んでしっかり罰を背負う気でいるなら、僕の仕事を手伝う気は無いかな。僕は駆け出しの探偵だから、助手がいないんだ。きみが助手になってくれるなら、これ以上嬉しいことは無いんだけど」  こんなことを言いやがる。  満面の笑みをやつれ気味の童顔に刻んで、シロヤマはこの一瞬で俺の予定を全部崩壊させてきたんだ。  自分に対する殺意さえその瞬間で失せてしまって、連れて来られて今に至る。   「お前が俺を警察に突き出せば終わる話だろ。なんでそうしない。知ってて黙ってかくまってたらお前も共犯だと言われて捕まりかねないんだぞ!」  そう言われて、僕は笑って返した。  そうならないという妙な確証があったから。
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