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度無しレンズの眼鏡と、どこか違和感のある口髭を蓄え、少々質の落ちるスーツの袖と裾は丈が合っていない……というよりこの男の手足の長さが既製品の規格外なのだろう。それに加えてヨレたネクタイ。櫛で軽く梳いただけと言うようなボサついた髪はだらしなさが目立っているが不潔さはないギリギリなところ。
実年齢はもう二十代も半ばを過ぎた良い歳なのだが、童顔ぎみな顔立ちゆえに実年齢より若く見られ、先ほどのような年代からは舐められがちなのが本人の悩みの種らしい。
度無しの眼鏡もそうだが、違和感のある口髭は隠すまでもなく後付けもの。つまり付け髭。どちらも童顔を少しでも紛らわせようとする精一杯の努力である。
本人曰く、いつかは本物の髭を自前で揃えてみたいと思ってはいるものの、悲しくも体質なのか産毛程度にしか生えてこず、どうにも希望は薄いらしい。
そうそう。先の例を述べたのは、幼き日のこの男だ。
昔っから理屈っぽい事をよく考えている男で、難しい書物をかじりつくように読みあさっていた。
よく人の顔と名前を覚え、要領は良く、勉学の成績は数いた兄弟のうちで一番だというのは誰からも認められていた。かと言って恨みを買うこともなく、人に好かれていたのだからそれはもう神の与えた才能というやつなのだろう。
五男三女の末っ子でさえなかったら、このタマノクラで知らぬ者はいないと言われる大財閥の主だった祖父の後を継ぎ、若き当主になれていたんじゃないかと周囲は噂した。
「はーあ。つかれた。ああいうタイプは扱いやすいけど、苦手だな、まったく」
いや。元々この男は、才はともかく引きこもり気質であった。人に好かれるくせに社交的な人付き合いを唯一不得手とする男が、当主などという表に出て注目を集めるような職に付いても長くは続かなかっただろう。
何より、やりたいことがあるからと、跡継ぎになることはシロヤマ自身が辞退したという話だ。
それがまさか、探偵業であったとは驚きなのだが。
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