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 まるでそこは、鼻を突く匂いだけが無いきらびやかな豚舎だった。  不快なことには変わりない。むしろ本物の豚舎のほうがまだ居心地が良かったように思えたその場所に、運悪く居合わせ生き残った子供がもう一人いた。  齢は十四になるかならないか。子供と言うには大人に近く、大人と言うにはまだ遠い、多感な年頃の少年は、父に連れられてそこへ向かい、そして事故に巻き込まれた。 「クロカワー、おおい、クロカワー」  当時の少年。今は充分育ちきった成人男性となった彼は、名を呼ばれて少し間を置き呼ばれた方へ顔を向けた。爆発事故の後遺症で片耳の聴力が落ちてしまい、そちら側からの弱い音には反応が遅れてしまうらしい。  その顔の、額の左側。大きく裂けた傷口を何針もかけて縫い付けたとはっきりわかる痕がある。その傷と聴力の事について彼は昔事故に遭ってしまって、とだけ周囲に説明しているようだ。 「何ですか、工場長」 「休憩中わりいなあ、ちょっとこっち手伝ってくれんか」 「はい。すぐ行きます」  クロカワと呼ばれた彼は腰掛けていた木陰の下から立ち上がり、呼ばれた方へと足を向けた。
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