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「はあ? 断ったのかよクロカワ。工場長の姪っ子ってたしか良いとこの商家のお嬢だろう。上手くいけばこんなとこで働くよりももっと良い暮らしもできるじゃねえか、何が不満だよ」 「おい、そりゃ工場長に失礼だろう」  同僚達が騒ぐ傍、工場長が彼に問う。 「まー……、無理強いするつもりはねえが、そこまで嫌がるってなら、せめて断るに障りの無い理由を聞かせてくれねえか。クロカワ」  理由。と言って、少し考え、首の後ろをわざとらしく搔きながら彼は口を開いた。 「母が親父の妾だったこともあって、俺は身内や家族というものに良い思い出が無くてですね。むしろ恐れの方があるんです。唯一、ずっと傍に居たいと思った相手はいましたけど、昔、事故に巻き込まれて死んでしまって。それから俺はそういうものを持ってはならん、思ってもならんのだと腹をくくって生きてきたもんですから」  所帯を持つことは考えられないのだ。彼はそう答えた。
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