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彼は五つの歳に母を亡くしたが、唯一の男児ということで後継にされるべく資産家である父親に引き取られることとなる。  暮らしは同年の子供よりも豊かなもので、充分すぎるくらいの教育も受けられた。  後継として出来る子供であれば評価された一方で、そうならなければという圧もあったと彼は語る。  父親との関係は良くも悪くも、というところ。一般的に語られるような父と息子の関係と比較するなら良い方だったと言えただろう。しかし、引き取られた先の屋敷にいた正妻……継母との関係は悪い一方で、影では陰湿な嫌がらせと理不尽な扱いをされたこともあったようだ。  そこから十年としないうち、件の爆発事故が起きた。  そこで父は意識不明となる重傷を負った。  医療に助けられ命を繋いでいたようだが意識は戻らないまま数年を数え、彼が十八になる前息を引き取った。  これ幸いと沸き立ったのは正妻とその娘たちだ。彼が後継ではなくなることで利益を得る親戚筋と結託し、彼は全ての権利を奪われ、一人市井に放り出された。  彼には心を許せた幼なじみが一人あったが、その人もまた爆発事故の現場に居合わせ死んだと聞いている。  望む望まざるに関わらず、親しくなれば不幸にする気がして。彼がそんな話を言って聞かせると、同僚たちはそれきり何も問えなくなったようだ。
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