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「お姉ちゃん、お願いだから、もう飛び降りるなんてやめて。約束して」
「……うん」
病院のベッドに寝かされたわたしに、若い女の子が泣きついてくる。雰囲気からして、妹だろうか。
わたしが入り込んだのは、前の体より少し若い女の人だ。赤の他人なので、どんな人生を送ってきたのかはわからない。ショックによる記憶障害ということにしておけば、当面はごまかせるだろう。
事故のことは不運だったが、この体がすぐに見つかったのは幸運だった。橋から飛び降り、水面に体を叩きつけられたことによる心肺停止。肉体自体の損傷は少なく、川岸に流れ着いていた体にわたしが入り込むと、うまく心臓が動き出した。
体の元の持ち主は、わたしの代わりに灰色天使に連れられて階段を昇っていった。なんの抵抗もしなかったところを見ると、この世への未練はないのだろう。ひとこと声をかけたかったが、死を選んだ彼女に何を告げればいいのかわからなかった。
幸運といえば、事故の時にわたしの元にやってきた天使が、最下級の灰色だったことだ。これが赤色や銀色だったら、今度こそ有無を言わさず黄泉の国に連れて行かれたことだろう。今度の体は十分に若いし、大事に生きていけば、五十年以上はこの世にいる時間が延びるはずだ。
魂の縁は、生まれ変わっても繋がっているという。五百年前に別れたあの人は、今はどんな姿をしているだろうか。
再び邂逅を果たすその日まで、わたしはまだあの人の記憶を失うわけにはいかない。
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