<18・モクヒョウ。>

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<18・モクヒョウ。>

「私、決めマシタ!」  どどん!と。藍子はテーブルの上にプリントしてきた紙を置いて言った。 「次応募する公募は、これにします!菊書房ホラー・ミステリー小説大賞!」 「ほう」  ここは家の近所にあるカフェ“ナギセツ”。目の前にいるのは帝だった。  彼は藍子がプリントした紙をまじまじと見つめて、まあ、と頬を掻いた。 「狙いどころは悪くないんじゃないか。文字数の規定もかなり緩い方。六万文字から十八万文字の間で書けば応募できる。菊書房はホラー文庫も充実しているから、受賞した後のバックアップもしっかりこなしてくれるだろうしな」 「でしょう!?」 「ただ、この賞は“応募資格”がないコンテストだ、ということを肝に銘じておいた方がいい」  ぺた、と紙を置き直して言う帝。 「つまりは、新人もプロもごったまぜで応募してくるってことだ。……新人賞、とついている公募であってもプロ応募可のものもなくはないが……多くの場合は、商業化されてないアマチュアだけが応募してくるというのがポイントだ。こういう言い方はあまり好ましくないと思うかもしれないが、ライバルに大きな差があるのは忘れるべきじゃない」 「プロも応募できる公募は、既に書籍化してるプロも強力なライバルになるってこと、だよね」 「その通り。もちろん、プロと一言で言っても玉石混淆だけどな。……それでも、一切書籍化経験、商業化経験のないアマチュアより手ごわいことが多いのは事実だ。そいつらを相手に勝利するのは生半可なことじゃあない」  それでもここにするからには、何か理由があるんだろうな?帝の目はそう言っている。  これはきちんと、自分の意図を語っておくべきだろう。少なくとも、彼は自分の仕事の時間を削ってまで、藍子が受賞するためのバックアップをしてくれると言っているのだから。考えていることは正直に話しておくのが道理だ。 「まず……暫くは、ホラージャンルに専念しようと思ったのが、大きくて」  プリントの上。  菊書房ホラー・ミステリー大賞、の文字をなぞる藍子。 「色々なジャンルを書いて幅を広げるのも大事だけど……やっぱり私が書きたいものはホラーだし。そこに特化した賞にしたいなと思ってて」 「ふうん、それで?」 「正直、最初は小さな出版社でもなんでもよくて、そこはあまり気にしてなかったんだけどね。ホラーの賞ってそもそも硬派な文学系の賞も多いというか。私が目指すのは、あまり小説を読むのが得意じゃない……それこそ、ライトノベル系とかが好きな若い人に楽しんで貰える作品だから。年齢層が上の人や、玄人作品の公募は向いてないなって思って。そう思ったら、自然に応募できそうな賞が絞られてきたっていうか……」  秋山ライト文芸新人賞に応募した時もそうだった。
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