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「あんた、心広すぎだろ」
一週間後。
全てを話した帝は、呆れたように藍子に言ったのだった。
ちなみにここは、隣駅前にあるステーキハウス。藍子は“お祝いに”と帝を連れだしたのである。
何のお祝いかといえば、帝――桐原ミカの新刊発売が決定したお祝いだ。なんと彼は藍子の面倒を見ながら、ちゃっかり新作の原稿を書き上げていたのである。恐るべし速筆。本当に、いつの間に終わらせていたのやら、だ。
「それで、結局星河エミナを許したのか。俺だったら一発ぶん殴ってるぞ」
「いいのいいの。あんな状態のえみなは殴れないし。ていうか、多分殴るまでもなかったし。……自分の罪は、えみな自身が一番わかってただろうしね」
思うところが、なかったわけではない。
それでも藍子は決めたのだ。もう、えみなは十分罰を受けた。十分苦しんだ。だったらもう、いいではないかと。
恨みつらみをいつまでも抱いて、彼女と関係が断絶したままでいるよりよっぽどいい、と。
甘いと言われるかもしれないが、それが藍子が選んだ“自分が幸せになれる選択”だったのである。
「えみなは、クリオネの連載は自分から打ち切りを申し出たって言ってた。自分には、分不相応だったって」
ウェイターがサーロインステーキを二つ運んでくる。一つは藍子の前、一つは帝の前。藍子の方が、ちょっとだけサイズが大きいのは此処だけの話。まあ、今日は藍子の驕りなのだから問題もあるまい。
「そう言う決断ができただけ、えみなも前に進んでるし。ちゃんと謝って貰えたから私はいーの。ほら、六条さんも食べてたべて。新刊発売おめでとう祝い、なんだから!」
「まあ、あんたがそれでいいって言うなら俺はもう何も言わないけども」
水を飲みながら言う帝。
「すっきりした顔してるな。……ま、雨降って地、固まるならそれもありか」
なんとも言い得て妙だ。
確かに、えみなと揉めなければ、自分は帝とまともに知り合うこともなかったかもしれない。同時に、えみなが抱え込んできたものと向き合うこともないまま、水面下で罅が大きくなっていったかもしれないのだ。
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