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<6・オデカケ。>
と、いうことがあったのだが。
「え、えっと……?」
今、藍子は駅にいる。しかも、帝と一緒にホームで電車を待っている状態。
あの後彼に“シャワーあびて身支度して出てこい”と言われてそうしたのだ。その時、“それなりにテンション上がる私服で来い”とも言われている。
「こ、これはどういう状況で?」
アパートの通路で待っていた帝も着替えて、いつものワイシャツではなくもう少しお洒落な服を着ていた。黒いシャツの胸には十字架のネックレスが光っているし、カーキ色のズボンも多少値が張るものであるように思われる。藍子も藍子で、最近来てなかったお洒落着のワンピースを引っ張り出してきたわけだが。
そのあと“出かけるぞ”と言われて、財布とスマホとSuicaだけ持って駅に連れ出されたというわけだ。
どうやら、自分をどこかに連れていってくれるらしいが。
「あの、私はどこに連れていかれるの?」
「美味い飯」
彼は即答した。
「三つ隣向こうの駅に、穴場のイタリアンの店があるから連れていってやる。コスパもいいし、飯も上手い。あんたがパスタ嫌いならやめるが」
「や、そ、そんなことはない、けど」
「ならいい。それと、その近くには映画館もある。今日はどっちも俺が驕る」
「え、えええ……!?」
ちょっとまって、と困惑する藍子。
これ、ひょっとして、ひょっとしなくてもデートのようなものではなかろうか。思わずチラ、チラ、と彼の方を見てしまう。
背は180cm程度。男性としてはややほっそりしているが、足も長いし顔も綺麗だ。黒髪は少しクセっ毛に見えるに見えるが、ひょっとしたらあれもセットした髪型なのかもしれない。
そして、まだ若い。多分二十代前半、行っていても半ば程度。――自分のような、美人でもなんでもない女には、ちょっともったいない物件のような。しかも、プロ作家だという話だし――。
――い、いいのかな?これ本当にいいのかな!?ていうか、私男の人と二人でどっか出かけたことなんかないんですけど……!?
今までモテたことなんか一度もない。可愛いと言われたことだってない。学生時代も本を読んだり、えみなのような友達と一緒にノートに落書きして小説書いて、みたいなことばっかりやっている人間だったのだ。成績はいつも中の下程度、時々墜落しそうになったこともあるほど。運動神経だってよろしくない。当然、告白されたこともなければ、彼氏がいたこともなく、合コンだって参加したこともないのに。
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