<1・ウラギリ。>

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<1・ウラギリ。>

 始まりは、一冊のノートだった。 『藍子ちゃん、藍子ちゃん!』  中学一年生。同じクラスの親友、五里(ごり)えみな。彼女は一冊の大学ノートを差し出してきて、三木藍子(みきあいこ)に言ったのだった。 『藍子ちゃんもさ、あたしと同じで小説家志望、でしょ?だったら……今から二人で、作家になる練習しよ!』 『れ、練習?どうやって?』 『決まってる!いっぱい二人でお話書くの!』  えみなは教室の机でノートを広げて、シャープペンシルを横に添えた。そしてニコニコ笑いながら言ったのである。 『小説家になるにはどうすればいいのかって、動画で見たの。やっぱり、たくさん書いてみるのが大事なんだって。それでまず、最初は短い物語からスタートさせて……完結するのが大事なんだって』 『え、でも、小説家になるには長編を書けないとダメなんじゃないの?』 『そうなんだけど、いきなり壮大な物語を書こうとすると失敗するって言ってた。確かに、途中でエタって投げちゃったら意味ないもん……』  エタる。語源はよくわかっていないが、スランプやらなにやらで作品が書けなくなってそのまんまになってしまうことらしい。  確かに、せっかく壮大な設定やプロットを考えても、いざスタートさせたら先が見えなくなって、嫌になって投げてしまったら本も子もないに違いない。  だからまず、短編を書き上げるように練習するべき。確かに、えみなの言うことは理にかなっている。 『そういえば、最近は短編小説の公募とかもあるんだっけ』 『そうそう。短編の受賞をきっかけにデビューした人もいるみたいよ!』  だからさ、とえみな。 『まずは二人で力を合わせて、短い物語を書いてみない?一緒にアイデアだしやったりして、プロット書いたりして。一人では挫けちゃうかもだけど、二人なら楽しく続けられるかもしれないわ。それこそ、高校生になっても、大学生になっても、社会人になっても、あたし達はずーっと友達でいるわけだし』  高校生、大学生、社会人。  当時の藍子にとっては、想像もつかないほど未来のことだった。でも、大好きな親友がずっと傍にいてくれる、それだけでどんなことでも頑張っていけるような気がしたのだ。  そう、まだ見果てぬ夢である、小説家になるという目標だって。 『うん。……私達、ずっと友達、だもんね』  よし、と私はシャープペンシルを手に取った。 『よし、じゃあ……一緒に小説、書こう!じゃあ、どういうのにする?やっぱり、私達中学生だから……中学生の女の子が主人公の話がいいかな?』 『あたしもそう思うー!せっかくなら怖い話がいいな。藍子ちゃんもホラー大好きでしょ?学校の怪談の本とか読んでるし』 『だね。じゃあ、学校の七不思議を体験する女の子の話とかにしよっかー』  私達は、疑っていなかった。自分達の未来が、どこまでも並んで続いていくことを。  私達が信じる限り、希望の光は続いているはずなのだと。  そう、だから。こんなこと、誰も想像なんてしていなかったのだ。 「なん、で?」  とある公募の、WEB上での一次選考結果発表。藍子の名前がなかったことは、残念だが仕方ない。でも。 「星河、エミナ……」  えみなが“星河エミナ”という名前で挑戦していることは知っていた。本来ならば親友の突破を、自分は喜ぶべきであるはずだ。  そう。 「その作品は……」  “流星のアルテナ”。  それはかつて、私と彼女が合作で作り上げた作品のタイトル。それが、彼女の名前と共に併記されていなかったのなら。
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