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<25・ネタギレ。>
正直、玄関で追い返されても仕方ないとは思っていたのだ。
しかし藍子が“アイス買ってきたから言一緒に食べよ”と言うと、彼女は無言で中に引っ込んでいった――ドアに鍵をかけることもなく。これは、入っても問題ないだろうと判断した。
多分、藍子に対して何も思っていないわけではない。怒りもあるし、恨みに近い感情もあるだろう。
しかし怒りをぶつけるためには、ある程度エネルギーが必要なのだ。それが枯渇している状態では、怒って相手を突っ返す余裕さえないのだと思われる。
――……重症じゃん。
これは、本当に来て正解だったかもしれない。アイスもすぐ食べられる状態ではなさそうだと判断して、勝手に冷凍庫開けて入れさせてもらった。これは、アイスより先に何かご飯を食べさせた方が良さそうか。
ソファーに座ったまま、ぼーっとしているえみな。明らかに目の焦点が合っていないし、目の下のクマは酷い。顔色は青く、頬がこけている。お洒落だったはずの彼女が、髪の毛がぼさぼさ、キューティクルもへったくれもない状態になっている。
そして、今までは家の中にいても外に出られるくらいの服装をしていることが多かった彼女が、今日は完全に臙脂のジャージ姿。――これは、何日も家を出てないのかもしれない。
――……卵とか、カップ麺くらいはあるけど。……これは、最近ろくに料理もしてなさそうだな。
はあ、と藍子はため息をついた。
彼女に対して言いたいことは山ほどあったが、ここで恨み事をぶつけるほど鬼ではないつもりだ。正直、これ以上追い詰めたら何をしでかすかわからない。
「……えみな、ちゃんとご飯食べてる?」
藍子の問に、彼女は視線も合わさない。
ゴミ箱を見た。カップ麺のゴミが見つかったが、少し臭いがする。何日前のものだろう。ゴミ捨て場に捨てに行くのも避けているのかもしれない。というか、この調子だと少なくとも今日は朝ごはんから何も食べていないのではないか。
「ご飯食べないと駄目だよ、体壊しちゃう。お茶は飲んでるの?お風呂は?少しリフレッシュするとかしないと……」
「……煩いわね」
反応があった。低く、呻くような声だったが。
「あんたに、何がわかるのよ。プロでもなんでもないワナビのくせに」
以前の自分なら、そのようなことをえみなに言われたらショックを受けたかもしれないし、少なくともカチンときたことだろう。だが、疲弊しきったえみなに言われても不憫にしか思わないのが本心だ。
何より、反応があっただけマシ、と思ってしまう。意思の疎通ができないレベルだったら、手の施しようがなかったところだ。
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