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「うん、何もかも分かるなんて言えないよ。私はまだ、趣味で書いてればいい段階だから」
とりあえず、お茶を入れよう。過去何度もこの部屋に来てはいるので、多少勝手はわかっている。えみなも何も言わないし、ポットと茶葉くらい使っても文句は言われないはずだ。
最初は緑茶かほうじ茶でも、と思ったが茶葉のポットは空になっていた。来客が最近ない、ということなのか。それとも使い切っても補充する元気がなかったのか。
幸い、緑茶のティーパックはあったので、それでお茶を入れさせてもらうことにする。
「コップ、勝手に使うからね。いいね?」
「……好きにすれば」
「良かった、話はできそうだ」
ついでに自分の分も入れさせて貰うことにする。ピンクのキティちゃんのマグカップを二つ出してきてさくさくお茶を入れさせてもらった。本当ならお湯を沸かし直すべきなのだろうが、幸いポッドには半分くらいお湯が残っていてまだ温かかったので再利用させてもらうことにする。
お湯を沸かしているということは、辛うじてお茶は飲んでいそうだ。少しだけほっとした。
「はい、お茶。テーブルに置いておくからね。喉は乾いてるでしょ」
ソファーの前にはテーブルがない。食卓の方に置くと、彼女はちらっとこっちを見て言った。
「……居座る気?」
「居座りますよ、はい。いくらなんでもこんな状態のえみなをほっとけるわけないでしょうが」
「余計なお世話なんですけど」
「そう思うなら追い出しなさいよ。そんな元気もないくせに。はい、お茶飲んで。愚痴でもなんでも聞くから。……私相手なら、もう今更何言ったって気にする必要ないでしょ。私もそのつもりで来たんだから」
「…………」
喉が渇いていた、と言うのは本当かもしれない。えみなはふらつきながらも立ち上がり、こちらに寄ってきた。椅子を引き、暗い表情のまま藍子の前に座る。
まったく話をするつもりではない、ということらしい。いや、むしろ。
「連載、きついんじゃないの?」
藍子は、なるべく優しい声を作って言った。
「色々言ったけどさ。私は……あんたは、頑張ってると思うよ」
ずっと。
ずっと考えていたのだ。
そもそもどうしてえみなは、自分達が中学生の時に作った合作“流星のアルテナ”を勝手に使って、秋山ライト文芸新人賞に応募したのか。
あれが自分達にとって大切な話だ、というのは抜きにしても。
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