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よくよく考えてみれば、中学生の、まだ拙い頃に作った小説をリメイクしなければやっていけないというのはよっぽどのことではないか。当たり前だが、子供の頃に作った話は未熟であることが多い。実際、かなりの校正、修正をしなければ作品として成り立たせることはできなかったことだろう。普通に小説を書くより、むしろ手間暇かかっているかもしれないほどだ。えみなが言っていたことも、けして嘘ではない。
ではなぜ、そんなネタを使ったか。
恐らくは――彼女は既に、デビュー前からネタ切れに悩んでいたのではないか。
クリオネで連載した“テレポートブロック”もそうだ。連載の話を持ってきてもらって喜んだものの、すぐに書けるようなネタが見つからずに、仕方なくアイデアノートから流用したのではなかろうか。
本当は、盗用やパクリなんてことをする前から、ずっとずっと一人で悩んでいたのではないか。
「……嘘でしょ」
やがて。
えみなは肩を震わせて言ったのだ。
「あんたは……あたしのこと、恨んでるはずでしょ。頑張ってる?……落ちぶれてるあたしを見て嗤いに来たんでしょ、だってあんたはあたしのこと恨んでたはずなんだから。ざまあみろって笑ってみなさいよ、偽善者ぶるんじゃないわよ!」
声はかすれていて、迫力に欠けている。その目には涙が浮かび、ギリギリの精神状態であるのは見てとれた。
本当はずっと、ずっと、ずっと――辛かったのだろう。だけど、それを誰にも吐き出せなくて、それで。
「そういう気持ちもなかったとは言わない」
藍子は静かな声で告げた。
「最初はめちゃくちゃムカついた。何で人の作品パクっておいて、偉そうにしてんのって。ずっと一緒に頑張ってきたのに、なんで人のこと敵だのなんだの言いだしたんだろうって。……でも、気づいたの。小説って、確かに自分一人で書くものではあるけど……ひとりで築くものじゃなかったんだって。本当はとっくに知ってたのに、最近の私は忘れてたんだなって」
だって、と続ける。
「中学生のあの日。えみなが私に声をかけてくれて、一緒に小説書こうって言ってくれなかったら……私の夢は、何一つ始まらなかったんだもの」
えみなだけじゃない。えみなに裏切られたと思って鬱々としたものをため込んでいた藍子。救ってくれたのは、彼がいたからだ。
帝がいなかったら、自分はもう一度立ち上がることができなかった。
己の世界に足りないものを、補うことなどできなかったことだろう。
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