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「物語の世界は、一人だけじゃ作れない。誰かと関わって、誰かを知って、誰かを好きになって、誰かと喧嘩して、誰かと手を繋いでぶつかって……そういうのが全部あって、作れるものだと思う。今の私は、えみながいなかったらなかった。こんなに楽しくて、最高の夢を持つことなんてできなかった。だから私は……えみなに感謝してるの。それは、今も昔も変わってないよ。その恩を、ちゃんと返せてなかったんだって気づいた。だから来たの」
「……なにそれ」
「嘘じゃない。私は確かにワナビだけど、でも……小説書く楽しさも苦しさも知ってるつもり。えみなの苦しさ、ちょっとは分かるつもりでいる。……それでも、何も話すつもり、ない?」
「――っ!」
「えみなは真面目だもんね。誰にも相談できなくて……ひとりで何とかしようとしすぎちゃった。違う?」
ぽろり、とえみなの頬を涙が伝った。
彼女が根っからの悪人だったなら、そもそも自分達は友達になんかなっていない。きついことを言ったのも、藍子を突き放したのも、苦しさゆえであったなら。同時に、彼女なりの罪悪感もあったのだとしたら。
「……思いつかなくなってたの」
ついに、えみなは震える声で話し始めた。
「小説家になりたい気持ちは変わってないのに、どんどん新しい話考えて書かなきゃいけないのわかってるのに……デビューする前に、ネタがなくなってきちゃって。出しても出しても落ちるし、落ちた作品使いまわしてもやっぱり通らないし。面白い話書かなきゃ、読者に受ける話書かなきゃ、トレンドに沿った話書かなきゃって思うのに全然、全然似たようなものばっかりで面白いような気がしなくて、それで」
「うん」
「そしたら、部屋を整理した時に出てきたのよ。藍子と、中学生の時にやってた小説のノート。あの頃は余計なこと考えなくて楽しかったな、どんどんネタ出てきたなって思いながら読んでみたら……今のあたしじゃ思いつかないような話のタネがいっぱい眠ってた。これを、今のあたしの技術で書き直したら傑作になるんじゃないかって、そう思って」
「……うん」
「でも、藍子に許可とか貰えない。共作ってことになっちゃったら応募できない公募も多いし、何より、あたし、本当は……」
泣き濡れた目で、彼女は藍子を見た。
「本当は、嫉妬してたんだから、藍子に。悔しかったんだから、ずっと」
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