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<26・イッショニ。>
何を書けばいいのかわからない、以前に。デビューするよりも前に、書きたいものを出し尽くしてしまった感があった。そして、こいういうのを書けばいいのかな、なんて思ってもそれがちゃんとしたアイデアになっていかない。アイデアになっても、それがみんなにとって面白いものかどうかの自信が持てない。
どうすればいいのか、わからない。藍子も同じように悩んでいると、そう思っていたのに。
――藍子は、まだ、書けるんだ。
えみなの背筋に、冷たいものが走った。
筆の速さだけならば自分の方が少し速いだろう。けれどいくら手が速くても、話が思いつかないのでは何の意味もない。
――あたしはもう、全然書けるものがなくなってきちゃってるのに。……藍子は、違うんだ。あたしとは……違うんだ。
思えば。
中学生の時からそう。いつも、最初のアイデアを思いつくのは藍子の方。えみなは、彼女のアイデアを受けてちょっとした提案をするくらい。文章を書き始めたら上手いのは自分の方でも、斬新なストーリーや設定を考え付くのはいつも彼女の方で。
その時、足元から黒いものが這いあがってくるのを感じたのである。自分は、一人ではもう小説なんて書けないのではないか。どうして、自分の方が先に夢を追いかけ始めたのに、彼女の方が想像力に長けているのか。まだ書ける、いくらでも書ける、それ自体が才能だとさえ気づいていない藍子。
――あたしの方が……ずっと前から頑張ってて、小説家を目指してきたのに!なんで、なんであんたなのよ!!
一緒に秋山ライト文芸新人賞に応募しよう。何も知らずに、笑顔で言う藍子の存在がいつの間にかプレッシャーになっていた。今度こそ、彼女に勝たなければいけない。せめて一次は絶対通らなければいけない。だがしかし、締め切りがどんどん近づいてきているのにネタが思いつかない、浮かばない。
気づけば、魔が差していた。
昔二人で作った小説を、そのままリメイクして流用して応募していたのである。文章は雑だし演出もヘタクソだったが、アイデアそのものは斬新で面白いものだった。今の自分なら、その斬新なアイデアをもっと輝かせることができるはずという自信があったのだ。
その予感は、的中した。
えみなが星河エミナとして応募した“流星のアルテナ”は、秋山ライト文芸新人賞で銀賞という、はなはだしい成果を上げたのだから。
「このチャンスを逃したら、もうあたしは小説家になってなれないって思った」
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