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六条帝が作家、というのは多分本当のことだろう。彼が仕事に行くのは週に二日程度だとわかったからだ。時々ものすごく遅く帰ってくることもあるが、あれはコンビニで深夜勤でもしているということなのだろう。
最初の印象は微妙だったが、ゴミ捨てや買い物やらで頻繁に出くわすようになれば多少話もするというものだ。
そのうち、初めて会った日にちょっと苛立っていた理由も教えてもらった。
「俺、作家としてはまだ若手だし、新人だし。公募とかの審査員として呼ばれることもあるけど、あんまり意見通らなくって」
彼はゴミ捨て場に生ごみを積み上げながら言った。どうやら紙ゴミが多いらしい。設定やらメモやらアイデアやらをアナログで書くせいで、紙ごみの量が凄まじいのだという。それと、一部出版社はいまだにアナログで書類を送ってくることがあるらしい。人に見られたくないものは大量にシュレッダーにかけるので(機械ではなく、手でくるくるハンドルを回すタイプのやつだ)、どうしても紙ごみが増えがちなんだとか。
「その日、ある公募の発表があったんだけど。俺が推した作品、通して貰えなくって。代わりに、ちょっと微妙だと思った作品が受賞してて……正直それがなんだかなーってかんじで」
「プロ作家って、そういう仕事もあるんだ。大変だね」
「あんま審査とかやりたくないんだけどさ。大学生でデビューしたから、多分珍しがられてるんだと思う。やっぱ、作家に若い奴がいると期待の星!みたいに持て囃したくなるし……集客もよくなるんでしょ。いくら審査員に大御所並べても、大御所だらけだと若い人の意見取り入れてもらえなさそーなイメージあるんだろうし……実際そうなったし」
「……ほんと苦労してそう」
しかし、帝は週二日程度とはいえアルバイトもしているし、どうやら通常の執筆以外にライター業務も請け負っているようだ。
昨今は出版業界も厳しいし、専業作家で食っていける人は少ないというのはわかっている。しかしそれにしたって、他にもあれもこれもと仕事をつめこんで本業が疎かになったりはしないのだろうか。
そしてどうやって執筆時間を確保しているんだろうか。
藍子が純粋な疑問を尋ねると、彼は目を丸くして言った。
「逆。時間がありあまってると、人間逆に書かなくなるもんだぜ」
「え、だって……」
「ニートやひきこもりや、社会人より時間が余ってる大学生とか?そういう人が社会人より執筆量増やせるかっていうとそうでもない。そもそも、人間の脳みそってのは、余った時間全部執筆にあてようとしても無理にできてる。あんたも作家志望ならわかるだろ?今日は一万文字書こう!と思って何時間もぶっつづけで机にかじりつけるか?」
「……無理だね」
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