<4・キョゼツ。>

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<4・キョゼツ。>

 藍子がえみなと共に作り上げたのは、最初のリレー小説だけではなかった。  そもそも自分達は当初は、二人で一つのユニットとして作家デビューしようなんて話をしていたのである。高校生くらいになって“どうやら個人でしか応募できない公募が多いらしい”と気づき、バラバラに作品を書いて応募するようになったわけだが。  二人で物語を作ろうと考えていた時、お互いにネタを出し合って書き込んだノートがあった。  通称、アイデアノート。  将来二人で小説を書く時は、このたくさんストックしたネタを使ってみようなんて話をしていたのである。 『やっぱり、異世界転移とかってロマンがあるじゃん?』  こんな話をしたのを覚えている。  休み時間、二人でトイレに行って教室に戻る帰り、ふと通り過ぎた階段の前で藍子は立ち止まったのだ。  自分達の学校の廊下は、薄いタイルシートのようなものが四角く敷き詰められたようになっていた。そのタイルの一部に、不自然に色が違う箇所がいくつかあったのである。全体的に緑色なのに、何故か階段の真正面だけ赤いタイルとなっていた。まるで、急遽交換してそのままになってしまったかのように。 『そういうのをさ、一味違うテーマで書けたら面白いって思うんだよねえ』 『一味違うテーマって何よ、藍子ちゃん』 『例えばさあ、夢も希望もない異世界にうっかり飛んじゃうとか。そういう異世界から、少しでも良い異世界に行くため、異世界転移を繰り返すとか面白そうじゃない?』  藍子はタイルの前に立ち、赤いタイルの上に乗った。  もちろん、それは色が違うだけのタイルで、実際は何が起きるわけでもない。でも。 『この赤いタイルに、逢魔が時に呪文を唱えながら乗る……と!なんと異世界に行ってしまう。手を繋いでいたら、手を繋いだ人も一緒に飛ぶ!ね、面白そうじゃない?』  今思えば。ホラーをメインで書こうと思った片鱗は、あの時に既にあったのかもしれない。  学校の七不思議に興味があったし、都市伝説も大好きだった。そして、異世界ファンタジーでも明るくてポップなものより、ちょっとダークなものの方が興味を惹かれたものである。  この時もそうだった。異世界へ行ってしまうという怪談が学校にあったら。その方法が、こんな風に誰も気に留めないような一枚のタイルを使ったものだったら。  面白半分で小中学生の女の子二人が試して異世界転移をしてしまい、取り返しがつかないことになる物語ならば。 『うん、いい!面白そうね!』  藍子の提案に、OK!とえみなはピースサインをしてみせたのだった。 『よっし、じゃあそれもノートに書きましょ!簡単なプロットとか設定とか書き溜めておけば、あとで好きな時に書き始められるし。主人公は小学生がいいの?それとも中学生?二人組なんでしょ、仲良しの』
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