<4・キョゼツ。>

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『だね。うーんどっちがいいだろ。……小学生の方が、後先考えず馬鹿なことしそうだよね。あと、男の子と違って女の子は大人ぶって背伸びして、男の子とは違うような愚かな真似をしそうというか』 『あ、それはあるわー。……理想の、中世ヨーロッパ風の……そう、ラノベでありそうな剣と魔法の世界に行こうとしてさ。そのために異世界転移を繰り返しちゃうとかやりそうよね。王子様とかさー、チート無双とかさー、溺愛とかそういうの夢見ちゃって。それこそ、夢小説みたいな』 『そうそうそう。で、それぞれの世界にあるテレポートブロックを使って転移を繰り返すたびに、どんどん良くない世界に行って、戻れなくなっちゃってさ……!』  “テレポートブロック~終着地点~”。それが、その時私達がつけたアイデアであり、小説の種のタイトルだった。  いつか二人で、この物語を書けたらいいね、と。そう思いながらひとまずアイデアノートに仕舞った話。そのアイデアノートもまた、えみなの元に保管されたものだった。  あの時、ノートを文房具店で買ってきたのはみんなえみなで、その結果アイデアノートもリレー小説などの合作を収めたノートも全部彼女が保管していた。彼女のノートで書いていた以上、それも致し方ないことではあったと思う。というより、当時は彼女にアイデアや小説の著作権を奪われるなんてまったく想像もしていなかったのだ。だって二人で書くつもりでいたし、そうでなかったとしてもそのネタを使う時にはひと声かけてもらえるだろうくらいのことは疑っていなかったのだから。  それくらい、藍子にとってえみなという存在は絶対的に信頼できる友人だったのだ。  だってそうだろう。――彼女が声をかけてくれなければ、自分は本格的に小説を書くことはなかったかもしれない。小説家になる以前に、なろうという夢も抱くことができなかったかもしれない。 『いい、いいよ藍子ちゃん!これ最高に面白いわ!』 『ほ、ほんと?ほんとにえみな?』 『うんうんうんうん。これならいけるってー!』  二人で笑い合った日々は、藍子にとって紛れもない宝物。えみなにとってもそうだと信じていた。創作の悩みも苦しみも共有できて、共に切磋琢磨して。お互い、作家デビューする時はどっちが先でも賞賛できるはずと、あの時はそう信じていたのに。 「……あれも、なの?」  自室にて、たまたまスマホで、Xで流れてきた広告を見てしまった。  秋山ライト文芸新人賞銀賞受賞者、星河エミナ。電子書籍サイト“クリオネ”にて特別連載開始。タイトルは、“テレポートブロック~終着地点~”。  もう、彼女は誤魔化す気さえない。あの時アイデアノートに書いていた作品まで、自分のものとして発表し、連載するつもりなのだ。
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