<4・キョゼツ。>

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 耐えられなくなり、藍子はスマホのコールボタンを押していた。いくら土曜日とはいえ、今日も繋がらないかもしれない。それでも電話せずにはいられなかった。盗作以上に、これ以上心を踏みにじられるのが耐えられなかったがために。 「!」  いつもと違う音がした。コール音とともに、ぶつ、という繋がる音。相手が何かを言うより前に、藍子は叫んでいた。 「え、えみな!あの、あの……新連載の、テレポートブロックのことなんだけど!今度電子書籍サイトで配信するっていうあれ、あれ、二人で考えたやつじゃ……!」  藍子の声に、えみなは何を思ったのだろう。数秒間の沈黙の後、なあにー?と不機嫌そうな声が聞こえてくる。 『ああもう、編集からの電話と間違えて取っちゃった、サイアク。……何よ藍子。またクレームなわけ?』  低い声。冷たい声。  友達に向けるとは、到底思えないような。 『あたしが子供の頃書いたアイデアノートのネタ流用しただけじゃん。それの何がいけないの?あんたには関係ないでしょうが』 「か、関係なくない。関係なくなんかないよ!あれ、あの話は、二人で作ったものじゃん。確かにノートはえみなが管理してただろうけど……でも、せめてひと声かけてくれたっていいじゃん。なんで、何も言わないで無断で使うの?」  それで最終的に、えみなの名義だけで発表することになるならそれでもいい。  無断で使われるより、百倍良かった。だってそれは――何も言わずに藍子が書いたネタを使われるのは、それこそ藍子自身を蔑ろにしていることに他ならないではないか。 「私達のアイデアノートのネタを、どうしても自分の名義で使いたいっていうならそれでもいいよ!」  声がみっともなく震える。ひっくり返る。  壁が薄いアパートなのはわかっていたが、それでも周囲を構うことができなかった。 「でもさ……でもさあ。なんで何も言ってくれないの?一言、使ってもいい?って言ってくれたらそれだけで違ったのに。えみなにとって私は、もういなかった存在も同然なの?ねえ、どうなの?」  彼女は、気づいていないのだろうか。  藍子が何に一番悲しんで、怒っているのかということに。  自分達の友情を、名誉のために踏みつけにされたように感じた、なんて。そう考えるのは大袈裟がすぎるだろうか。 『何きれいごと言ってるわけ?』  えみなの声はにべもない。 『それで?あんたが“使わないで”って言ったらどうなんの。あたしはそれに従わないといけないの?ノートはあたしの手元にあるし、あたしが考えたも同然なのになんであんたの許可が必要なのよ』 「あれを最初に言い出したのは私だし、メインで考えたのも私じゃない!」
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