<5・カチタイ。>

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 突然、インターホンの音が鳴り響き我に返った。はっとして顔を上げる藍子。しかし、体は動かない。  宅配便かもしれなかった。そもそも、この部屋を訪れるような友人などほとんどいない。えみなが此処に来るとも思えない。ネット友達や会社の人が来るとも思えないし、やっぱりなんらかの業者だろう。  どうしよう、と思った。  宅配便なら荷物を受け取らなければいけないが――今日はろくに出かけるつもりもなかったから芋ジャージ姿だし、そもそも髪の毛ぐちゃぐちゃで顔も涙と鼻水でみっともないことになっている。とてもじゃないが、人様の前に出られる格好では、ない。 ――居留守、するしか、ないかな。  申し訳ないと思いつつもそんな結論を出しつつあった、その時。  ぴんぽーん。  もう一度、チャイムが鳴り響いた。さらにはドアをノックする音まで。  しかも。 『なあ、三木さん?いるんだろ?』  聞こえてきた声は。  隣の、303号室に住む、隣人。 ――え?六条、さん?  あっけにとられた。確かに彼は職業柄、部屋にいることが少なくない。それでもあくまで自分達の関係は、時々雑談をする隣人というだけのものであるはず。彼が家を訪ねてきたことなんて一度もなかったというのに。 ――なんで、うちに……。  少し高くて、柔らかい六条帝の声。なんだか安心する。相変らずメンタルはボロボロだったし酷い姿だが、気づけば足は玄関の方へと進んでいた。  向こうで、もう一度ノックの音が聞こえる。激しく打ち鳴らすものではなく、まるで呼びかけるような音が。 『さっき、電話してたよな』  心臓が、跳ねた。 『このアパート、壁薄いって本当だったんだな。丸聞こえだった。あと。アンタうっかり変なとこ触ってスピーカーにしてたんだけど、気づいてたか?相手の声まで全部聞こえてたんだけど』  うそ、と思わず手に握りしめたままのスマートフォンを見つめる。電話をかける時相当慌てていたし、変な操作をしていてもおかしくはなかっただろう。ひょっとしたら、いつもより電話の音量も大きくなっていたかもしれない。  あと、よくよく考えれば自分も結構な声で怒鳴ってしまっていたような。 『星河エミナか。……テレポートブロックって、あいつの新連載だったよな、知ってる。あれ、まだ第一話しか更新されてないけどそれでも読んだ。ちょっと斬新な設定で惹かれたんだけど……まさか、あんたのアイデアだったとは』 「そ、その……」
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