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『アイデアに、著作権はない。設定とかプロットとかの原案なら話は別だろうが、そのノートとやらが星河エミナの手に渡ってるなら、あんたが著作権を主張するのは相当厳しいだろうな。もちろん、裁判を起こせばアンタが勝とうか負けようが多少相手に傷をつけることはできるだろうが、それには莫大な金もかかるし』
「そ、そんなつもりじゃ!さ、裁判なんて……!」
確かに悔しい。でも、別にえみなを傷つけてやりたいとか、憎いから全部奪ってやりたいとかそういうわけではないのだ。
ただ“どうして”という気持ちが強いのである。
何故彼女があんなことをしたのかがわからなくて苦しい。少し前まで普通に話していたはずなのに、一体何が彼女をそんな風に変えてしまったのかがわからない。何より、ずっと親友だと信じていた存在に裏切られたショックで、悲しくて悲しくてたまらない。
「あ、アイデアノートのアイデア、勝手に使われたのは悲しいけど、でも……でも、盗作だとか、そういうことを言いたいんじゃない。奪ってやりたいわけでもない。ただ……ただ本当のことを知りたくて、できれば仲直りしたくて、それで……」
どうしたいのか、自分でもよくわからない。
怒りがゼロではないが、実際えみなを殴ったところで何も解決しないのはわかっている。それこそ、乱暴な手段に訴えたところで失うのは藍子の方だ。ましてや、本当は仲直りしたいのに、殺してしまいたいなんて思うはずがない。
「私、は」
ああ、これが多分、本音だ。
「私は……認めて、ほしい。えみなに……私のことを」
友達だと、あの宝物のような時間は嘘ではなかったのだと。
己の存在を、蔑ろにされたくない。
悔しい。――見下されて、いないものと扱われたのが、何よりも。
『だったら』
ドアの向こうから、六条の声が響く。
『最も正当な手段で、勝つしかないんじゃないの』
正当な方法で、勝つ?
藍子は鸚鵡返しに尋ねる。
『そうだ。星河エミナが、お前を無視できないようになればいい。それくらい、お前が実力を身に着ければいい。正面から、正々堂々相手を叩きつぶして見返してやれ。さながらスポーツの大会で、ルールにのっとって相手に勝利するように……小説の世界で、お前を相手に知らしめてやれ』
「そんなこと、できるの?」
『お前が死ぬ気で努力するならできるかもな。でも、お前に“勝つ気”がないならこの話はここで仕舞いだ。俺は、負け犬構っているほど暇じゃないんでな』
それはつまり。
勝つ気があるなら、彼が力を貸してくれるということなのか。
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