<1・ウラギリ。>

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 ***  一緒に小説家になろう。  そう誓った中学からの幼馴染、えみな。一冊のノートから、藍子とえみな、二人の創作活動が始まった。お互いにたくさんのネタを出し合い、共にプロットを書き、たくさんの共作や合作をした。リレー小説も書いた。そんな関係は自分達が中学を卒業して共に同じ高校に入り、大学生になっても続いていたのである。時々会って、互いに励まし合っていた。どちらもなかなか結果が出なくて悔しい思いをしたが、それでも一人でないと思えば頑張ることができたのである。  社会人になってからは仕事が忙しくて直接会える機会は減っていたが、それでも連絡は取りあっていたのである。お互いもう二十九。三十路になる前に作家デビューする、という目標が叶うかどうかは、ほぼこの“秋山ライト文芸新人賞”にかかっているとでも過言ではなかった。  私は“アルテミス”というハンドルネームで。えみなは“星河エミナ”というハンドルネームで書き続けていた。共にそれぞれ執筆し、応募し、一次通過できればいいねと話していたのはほんの一月前のことである。  それがまさか、こんなことになるなんて。 「え、えみな!」  藍子は結果を見て、慌ててLINEのアプリを立ち上げた。今が自宅アパートの部屋の中で良かったと思う。こんな動揺しきった顔を、他人に見せずに済んだのだから。 『えみな、秋山ライト文芸新人賞の結果見た』 『あれ、どういうこと?』 『流星のアルテナって、あれだよね?私達が中学生の時に一緒に書いた小説だよね?あれ、まさかあんたが勝手に、自分一人のものとして応募したんじゃないよね!?』  焦りながら必死で文章を打ち込む。手が震えて仕方なかった。怒るとか悲しいとかそれ以前に、混乱で頭がぐちゃぐちゃだったのである。  中学生の時、自分達が一緒にアイデアを出し合い、プロットを作り、半ばリレー小説の形式で共に書き上げた初めての長編小説――流星のアルテナ。偶然のタイトル被り、だろうか。そう言ってほしかった。正直、公募の一次選考結果発表の画面だけではそれ以上のことがわからないのだから。  その時使っていたノートは、最終的にノートを買ったえみなが持っているはずだ。  アナログ媒体なので、デジタルデータに打ち直すのはそれなりに手間がかかるはずである。それに、中学生の時の文章なので結構荒も多かったはず。まさかそれを修正して出したのか。藍子に無断で。自分一人の名前で。 ――なんで……!
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