<6・オデカケ。>

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――い、いや、こ、これはきっとそういうんじゃなくて、た、多分私が落ち込んでたから慰めてくれようとしているだけででででで!と、というか三十歳でいきなり春が来るとかいくらなんでも都合が良すぎるというかそういうのは少女漫画の世界のことだけだろうし私はどう見てもそういうタイプではないといいますがだって少女漫画のヒロインみたいに“自称フツウ女地味女”だけど実際は超美人とかそう言うオチでもなくってええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!  ふと、すぐ目の前を若いカップルが通過していった。その時、なんだか妙にいぶかしむような眼を向けられる。ハテ、と思っていると、左から呆れた声が飛んできた。 「三木藍子さん、だっけか。……全部口に出てる」 「ほわああああああああああああああああああああああああああああああ!?」 「人前であることを忘れないように。結構恥ずかしいぞそれ」 「どわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」  撃沈。  思わずしゃがみこんだところで、お馴染みのアナウンスが聞こえた。 『間もなく二番線に列車が参ります。危ないですから、白線の内側までおさがり下さい』  ああ、下がらなきゃ。ずりずりずり、とホームの黄色い点字ブロックの後ろまで下がる藍子。 「そ、その、なん、で」  これだけは尋ねておかねばなるまい。勘違いしないためにも。 「六条、サン、は。どうして私と、お出かけ、を?お仕事は?」 「気晴らしがしたかったから丁度いい。そろそろ散歩でもするかと思っていたし」 「さ、さいですか」 「それに」  彼は、ふい、と顔を逸らして言った。 「少し同情した。……俺もあるんだよ、作品盗まれたこと」 「え」 「自分で一生懸命書いた小説って、我が子のようなものだろう。それを、他人に踏みにじられることの恐怖や不快感、怒りは多分創作者にしかわからないことだと思う。あんたがどれだけショックを受けたのか、多分分かる人間は多くない。俺なら想像くらいはできると思ったから」 「六条さん……」  なんていうか、その。しゃがんだまま彼を見上げて、藍子は言った。 「実は、結構いい人だったり?」  言ってしまってから、なんだかかなり失礼な物言いだと気づいた。明らかに気を使われているし、慰めてくれようとしているというのに。  案の定、ちょっとだけムスっとした顔でこちらを見る帝。 「俺、そんなに人相悪い?」 「あ、いや、そういうわけではなく」
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