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「別いいけど。愛想ないって言われるのは慣れてるし。あんまニコニコヘラヘラ人にすんの得意じゃねえし。つか、あんたもよくついてくることにしたな。俺のことなんかろくに何も知らないのに」
「知らないけど、知らない人じゃないし。いいかなあって」
藍子は正直に言う。
「それに、あの時の貴方の言葉は……嘘じゃないんだろうなって、そう思えたから」
『だったら俺が、あんたを勝たせてやる』
あの時、不思議と確信できたのだ。
この人は、信じられる人だと。
「もし、貴方が“えみなをざまあする”とか、“復讐する”とか言い出したら……信じることはなかったと思う」
「そういうの、好きじゃない。世間の小説のトレンドではあるんだろうけどな。相手を負かすなら、正々堂々勝負の土俵で戦って勝った方が気持ち良いに決まってる」
「あはは、確かに」
『そうだ。星河エミナが、お前を無視できないようになればいい。それくらい、お前が実力を身に着ければいい。正面から、正々堂々相手を叩きつぶして見返してやれ。さながらスポーツの大会で、ルールにのっとって相手に勝利するように……小説の世界で、お前を相手に知らしめてやれ』
多分、自分はあの言葉に救われた気がしたのだろう。
同じ作家を目指すみんなはライバルで、敵でしかない。えみなの考え方を、誰より否定したかったのは自分だから。
「気持ちが沈んだ時は、美味しいものでも食べるに限る。その様子だと、最近落ち込んでばっかりでろくに執筆もできてないし、美味いものも食べてないんだろ」
「わかる?そういうの」
「スランプになってる人間はわかりやすいもんだ」
そういうものなのだろうか。彼もスランプになったりするのだろうか。
勿論プロならば、簡単に書けない書けないなんて言っている場合ではないのだろうが。
「美味いもの食べて、気晴らしに遊びに行くのは贅沢でもなんでもない。俺だって、自分の作品が貶されてムカついたり、公募に落ちた時はそういうことをする」
「……うん」
なんだろう。とても、気が楽だと思ってしまった。創作に関する悩み、苦しみ、スランプの乗り越え方。今回のことがなくてもえみなとは少し距離が出てしまっていたし(主に仕事で会えなくなったり、LINEでしかやり取りできなくなっていたというのが大きいが)、あまりそういう悩みを話すことができなくなっていたのも事実。
きっと自分は、誰かにわかってほしかったのだろう。己だって頑張っている、でもこれからどうやって頑張ればいいのかということを。
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