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きっとそれは、同じように創作している誰かにしかわからないことで。
「ところで」
線路の向こうの方、電車のライトが近づいてくるのが見えた。
「結局のところ、六条さんの作家としての名前って何なの?訊いちゃ駄目なら、訊かないけど」
ひょっとしたら、代表作を読んだことがあるのかもしれない。お出かけに誘ってくれたということはそれなりに信用してくれているのだろうし、教えて貰ってもいいのではなかろうか。無論、本人がどうしても嫌といううのなら無理強いはできないが。
「あー、えっと……」
電車が入ってきた。帝が少し気まずそうに視線を逸らす。そして。
「……桐原ミカ、だ」
一瞬。
聞き間違いかと思った。だって。
「き、きりはら、みか?」
桐原ミカ。桐原ミカ。
それはつまり。
「秋山ライト文芸新人賞で、と、特別審査員になってた……“地下鬼”の、桐原、せん、せ?」
「……ああ」
「まじで?」
「そうだけど」
確かに。桐原ミカ、という作家が実は男性らしいという噂はあった。ミカなんて可愛い名前だけれど、授賞式で会った人が男性作家だと言っていた、と。そういえば、ウィキペディアにも男性だと書いてあったような気がする。
それから、相当年齢も若い、というのも。デビューした時まだ十六歳で、それからヒットを連発するも未だ大学生くらいの年齢だとかなんとか。
それが、まさかの――アパートの隣人?今、自分の隣にいる人?
そもそも藍子とえみなが、秋山ライト文芸新人賞に応募しようと思ったきっかけが、憧れのホラー作家である桐原ミカの名前が審査員にあったからも大きいわけで――。
「え、ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
藍子のひっくり返った声は、電車のブレーキ音と共に空高く響き渡ったのだった。
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