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<7・イライラ。>
「あわ、あわ、わわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ……!」
さっきから変な声しか出ない。
気分はちいかわだ。
「あ、あの、その、桐原、せん、せ?」
「その名前で呼ばないでほしいんだけど。顔出ししてないし」
「ろ、ろ、六条さん、その。あの、すみませんでした、ワナビが偉そうなクチきいてていやほんとにその、あの」
信じられない。
憧れのホラー作家、桐原ミカがすぐ隣にいるなんて。言われてみれば年齢的には合致するし、思えば彼がイライラしていたあの日秋山ライト文芸新人賞の受賞発表日だったような気がしないでもない。
そうだ、彼のこの行動。
彼が“推してなかったのに受賞した新人”が星河エミナなら、わりと自分に同情的なのもわからないことではないではないか。
「す、すみませんでした。しれっとタメ口きいてたし……」
年下だし、なんとなく流れでタメ口で話してしまっていたことを心から反省する。電車の長椅子に座った状態であわあわと変な声を出し続ける藍子に、帝は呆れたように言った。
「いいよもう。つか、今更遅くね」
まさに仰る通り。
正体を知ったからって、不躾な態度を今更改めたところでどうしようもない。
「タメで話されるのは慣れてるし、そんな気にしてない。つか、最初に出会った日にアンタに八つ当たりしたのは俺も同じだし」
「……スミマセン。ていうか、六条さんがイライラしてたのも、秋山ライト文芸新人賞の件だったってことで、あってる?」
「まあ。……最終候補に残った作品の中で、俺が一番面白いって言った作品が、他の大御所作家さんたちに全然ウケなくてさ。結局、俺が推した作品が最終選考落ちになったのがすげえ納得いかなくてイライラしてた。そりゃ、俺一人面白いって言っただけじゃ通らないことがあるのはわかってたけど……蔑ろにされた理由が明白だったから余計」
むすっとした顔で言う帝。
「これ、ナイショにしてほしいんだけど。……先生方にも、出版社の人にも言われてさ。お前はまだ若いし新人の方なんだから少しは慎みを覚えなさい、みたいな。確かに、他の審査員の先生はみんな四十代以上で、俺一人若すぎて浮いてたのは事実だけども」
確かに、秋山ライト文芸新人賞、の桐原ミカ以外の作家は年配者ばかりだった。
直木賞を取ったミステリー作家の御大、蔓大悟とか。
本屋大賞を受賞した女流恋愛小説家の松平鮎子とか。
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