<7・イライラ。>

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 若手作家の中では間違いなく“桐原ミカ”も人気のある作者だし売れる本も出してはいるが、何十年も席巻してきた大御所たちと比べると見劣りするのは事実なのだろう。そして、これは藍子自身もそうだからなのだが、作家やクリエーターというのは拘りが強く頑固であることが多いものだ。だからこそ、自分にしか書けない特別な作品が書けるとも言えるだろうが。 「金賞取った作品には文句なかったし、俺も面白いと思ったからケチつけるつもりなかったんだけど、どうにも銀賞と銅賞がな……。俺の意見が封殺された原因が、蔓先生が俺のこと嫌ってるからってのも見えてたし、松平先生の女性作家ビイキは業界じゃ有名だったから間違いなく女性作家の作品を残したがってたしね。つか、松平先生が女性作家ってだけで銀賞銅賞の作品を金賞にしたがってて、正直それも嫌なかんじだったんだけど。出版社もそう。そこそこ若い女性が取った方が今のご時世話題になるからーみたいなこと言われて」 「それは、さすがになんかイヤですね……作品の中身じゃなくて、年齢や性別で推されるって」 「だろ?銀賞や銅賞の作品もつまらないわけじゃなかったんだけど、俺的には金賞の作品ほど光るものはなかったしさ……」  ちなみに、あの文学賞は金賞だけ賞金が五十万円で、銀賞十万円、銅賞五万円と一気に賞金が下がる仕組みとなっている。受賞は受賞でも、実際のところは金賞だけ別格扱いというわけだ。なお、佳作に至っては書籍化は検討されるものの賞金は出ない。 「細かい審査内容とか何が良くて駄目でなんて話はできねえけど。俺の意見は封殺されてイチオシ作品が最終候補から漏れるわ、漏れた原因が御大の圧力だわ、作品内容とは別の理由で推してくる“先輩”がいるわでストレスマッハだったわけ。正直、来年は審査員引き受けるかわかんね。小説の公募なのに、作品内容とは無関係のところで落とす落とさない決めるとかマジでクソかよ。本人のSNSの言動にでっかい問題があって、受賞させたらやべーってなったならそりゃ仕方ないとは思うけどさ……」  なるほど、と藍子は苦笑いするしかない。  公募の審査員、というのもなかなか大変であるようだ。しかも、それらの仕事は普段の執筆とは別にこなさなければいけないわけである。世の中には、死んでも引き受けたくない、と考えている人もいそうだ。 「そういうムカついた時は、六条さんも美味しいもの食べたりするの?」  尋ねると、まあな、と彼は座席によりかかった。 「あの日は夜、シャトレーゼのプリン三つ買って食べた。マジで美味かった」 「ぷ」  なんて可愛い。思わず藍子は笑ってしまう。  土曜日の昼間。電車はわりと空いている。この路線は平日の朝などは通勤客と通学客でごったがえすが、土日の朝昼はわりと空いていることが多いのだ。藍色の座席も、ところどころ空きがある。
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