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「もう今年の賞の結果は出たし。なんなら、その原稿読んでやる。WEBサイトに公開してるようならアドレス教えろ」
「ほ、ほんとに!?」
「ああ。こんなことで嘘ついてどうする」
――うわうわうわうわうわうわうわああああああああああああああああああああああ!あ、憧れの、桐原ミカに読んで貰えるとか嬉しい恥ずかしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!
頭の中でファンファーレが鳴り響き、同時に恥ずかしさで火山も噴火してしまう。かくかくと首を縦に振りつつ、藍子は彼と連絡先を交換した。同時に、その作品が読めるサイトも。
秋山ライト文芸新人賞の場合、既にWEB公開した作品も新作扱いとみなされ応募していいことになっているのだ。審査期間中は、WEB上で読めないように非公開にしてくれという記述はあるが、既に落選したので藍子も作品を再公開していたのである。
「でも、いいの?だって、六条さんも仕事忙しいんじゃ」
嬉しいが、彼の仕事の邪魔はしたくない。ましてや帝はアルバイトもやっているのだ。家で執筆などの作業が時間はそこまで多くないはず。
ましてや、彼は雑誌の連載もあったし、人気シリーズの続刊も書いているはずなのだから。
「問題ない」
心配する藍子に、帝はあっさりと告げた。
「一か月あれば、三十万文字くらいは余裕で書ける。今持ってるタスクなら、二十万文字書けば全然おつりがくるし」
――そ、速筆うらやましいいいいいいいいいいいい!
思わずハンカチをぎりりりり、と噛みしめたくなる。藍子の執筆ペースは、頑張っても一か月で八万文字程度だった。書き始めてからの筆があまり速くないのもあるが、それ以上にプロットと設定づくりに時間がかかってしまうからである。中には、プロット作ったあとで“やっぱり面白くないんじゃ”と没にしてしまい、それらの時間が全部無駄に終わってしまうことも少なくないほどだ。
「ど、どうしたら、そんなに早く書けるようになるの?六条さん、バイトもやってるのに」
思わずぽろりと呟けば、彼は“時間の使い方の問題”とのたまった。
「あとは、ネタ出しのスピードと……余計なことを考えないことが大事、だろうな」
「というと?」
「そのへんは、飯でも食いながら教えてやる」
電車のスピードが遅くなってきた。“次は北数平、北数平”とアナウンスがかかる。どうやら、そこが目的の駅らしい。
確かに北数平は、数平市の駅でも特に大きな駅である。駅前にショッピングモールもあるが。
「お前もそのうちわかる」
帝は意味深に、にやりと笑った。
「作家にとって一番の敵は、自分自身だってことがな」
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