<8・コワガリ。>

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<8・コワガリ。>

 ショッピングモールに到着したのは十一時頃だった。お昼ご飯を食べるという名目だったが、予約をしていかなかったこともあって(というか急遽行くことになったので予約のしようがなかったとも言える)、帝が狙っていたイタリアンの店は混雑していたらしい。  ならば時間をズラした方が良かろう、と先に映画を見る流れになる。――本当に、ランチも映画も奢って貰って果たしていいのかと思ってしまう。特に、最近は映画も高くなっているから余計に。 「ほ、本当にいいの?映画代もそれなりだけど」 「いい。俺は嫌なことは嫌だとはっきり言うタイプ。大体、俺から誘っておいて嫌も何もないだろ」 「そりゃまあ、そーかもですが」  十一時台で見られそうな映画は限られている。  十一時十五分からの恋愛ファンタジー映画、“転生の花束”。これは最近結構流行している、西洋ファンタジー風世界にトリップしてしまった女子高校生のお話だ。ヒーローが少女を守るために戦場に行ってしまうシーンが感動的だと話題になっている。  十二時二十分からはホラー映画、“囚森”。読み方はシュウモリ、だっただろうか。ユーチューバー四人組が酔っぱらったノリでとある森に足を踏み入れ、謎の怪物に追われて森から出られなくなるというホラーである。  十二時三十五分からは国民的アニメ映画があり、三十八分からは戦隊ヒーロー映画がやっている。藍子からすれば、どれも違った観点で面白そうとは言えるのだが(子供向け戦隊ヒーローなんかも馬鹿にできないと知っているからだ。特に日曜朝にやってるやつは面白いので毎週録画している)。 「三木サンは、ホラーを中心に書いてるんだったな。じゃあホラー映画見るか」  彼は映画の上映時間をパネルでチェックしながら言う。土曜日なので、映画館も少し混んでいる。幸い囚森は最近上映が始まったばかりなので、大きなシアターでやっているようだ。良い席が取れるかどうかは別として、席がなくて困るということはないだろう。 「あんた、ホラーの勉強したいなら映画見て学んでおけよ。ただ漫然と面白いとか面白くない、じゃなくてな。で、後で昼飯の時に俺に感想言え」 「ホラー小説書くのに、映画って参考になるもんなの?」 「なるに決まってる。表現方法は違えど、表現したいものは同じだからな。特に……俺の個人的な考えだが、別ジャンル書く作家でもホラーは勉強しておくに越したことがないと思うんだ」  なんでだと思う?と彼は振り返る。 「小説にしろ漫画にしろアニメにしろ流行り廃りはある。ホラーは一位になれるほど流行らなくても、大体五位くらいの位置をキープできる力があると考えるからだ」 「なるほど、完全に廃れることはないジャンルだと。その心は?」 「決まってる。……人間が面白いと思うものは移り変わっても、怖いと思うものはそうそう変わるもんじゃない」  彼はさっさと受付に並んだ。本当にホラーを見せるつもりらしい。勿論藍子としても興味はあるので全然いいが。 「どれほど時代が変わっても、死ぬことは誰だって怖い。そうだろう?」 「……そりゃそうだ」  なるほど、至言かもしれない。  藍子は頷き、彼が購入したチケットを受け取ったのだった。
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