<8・コワガリ。>

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 今回も、主人公を見捨てて逃げたエリカ一人だけ何事もなく平和に暮らしましたとさ、では視聴者はすっきりしなかったに違いない。最終的に彼女も残酷な殺され方をすることで、ある種因果応報というか、溜飲を下げることになるのだろう。怪物から無我夢中で逃げて、結果として仲間を見捨てることになってしまっただけの彼女にそこまでの罪があるかと言われると正直微妙ではあるが。 「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい……!」  で、結論から言えば。 「こ、こ、コワカッタ……」 「それはなにより」  映画館から出たところで、藍子は顔面蒼白になっていたのだった。ホラー書きなだけあってホラーにはかなり耐性があるつもりだったが、それでもものすごく怖かったことに違いはないのである。特に、最後の腸引きずり出しは恐ろしいどころではなかった。エリカが寝ているところで突然枕の後ろから手が生えてきて彼女の顔や首を掴み、さらには真っ白な顔をした仲間たちがベッドの脇から顔を覗かせて殺しに睨んでくるのである。  そして一人の爪が彼女の柔らかな腹部に食い込みずぶずぶと腹の中に飲みこまれていって――という。いやはや、あれは完全に不意打ちだった。藍子自身、彼女だけ無事に元の生活に戻って終わるんだろうなと思った矢先であったのだから。 「今日は、手帳を持ってくるように言ってあったはずだ」  スマホを取り出してメールをチェックしながら言う帝。 「今思っていること、怖かったこと。断片的でもいい、書きだしておくのをおすすめする」 「な、何が怖かった、とか?」 「そう。あとどういう場面でびっくりしたかとか、どういうところが衝撃的だったとか。全部じゃなくていい。本当に心に残った点だけで問題ない。同時に……逆に、ここだけは面白くなかったとか、ダレたなと思うところもメモしておくんだ。そういうのは、必ず自分の役に立つ」 「は、はいい……」  彼はちっとも驚いていなかった。ひょっとして、本当に怖いのは平気なのだろうか。上映中、“ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!”とか“ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!”とか“うひゃあああああああああああああああああああ!”とかうっかり叫んだりびびったりしていたのは藍子一人だったのである。なんか、流れで手を握ってしまった時もあったような気がする。
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