<8・コワガリ。>

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 藍子の視線に気づいてか、帝は“怖くなかったわけじゃない”と心を読んだかのようなことを言った。 「ただ、俺は既に今の映画を一度見ているから、おおよその流れを知っていただけだ」 「え、二回目だったの?」 「ああ。この映画はわかりやすいし、良いところも駄目なところも両方の意味で参考になるからな。教材として丁度いいと思ってたんだ」 「教材……」  やっぱり、プロの作家先生は違う。皮肉でもお世辞でもなんでもなく思う藍子である。  やや足ががくがくしていたが、なんとか引っ張られる形でエスカレーターを登り、イタリアンの店の方へ戻ってきた。まだ並んでいる人はいたが、ピーク時間を過ぎたこともあって少し混雑は緩和されてきたようだ。そのまま二人で並んで待つことにする。 「今の映画」  暫く寝る時枕を気にしてしまいそうだ。そんなことを思いながら、藍子は尋ねる。 「駄目なところ、っていうのもあったの?六条さん視点では」 「ああ。お前はそういうのはなかったのか?」 「だってあれ、大御所ホラー作家の“田嶋ノリユキ”先生原作の話じゃなかったっけ。そんな御大の作品にケチつけるなんてとてもとても」 「そういうフィルターをかけるのはよせ。あれはそれを元にした映画であって、本人の原作そのものじゃない。俺は原作も読んだから、改変されてるのも知ってるしな。それに、ものすごい大御所先生の作品なら、誰が読んでも面白いなんてそんなことはないだろ。田嶋先生は現代の若者の流行をかなり取り入れて書ける人だしリサーチもしっかりしているから、時代錯誤感がなかったのは良かったと思うけどな」  まあ、と彼は少しだけ苦笑いをして言った。 「ユーチューバーっていうのをちょっと馬鹿にしていた空気は出ていたが。……迷惑系のイメージが強いんだろうな、きっと。あと、ユーチューバーって存在はホラーの導入として便利すぎるんだよな、今の時代」 「それは……ほんとにそう」  自分もユーチューバーのやらかしで呪いが始まる話とか書いたっけなあ、と遠い目をする藍子。  願わくば、現実の動画配信者たちが、本当にやばい石碑とか壊して呪いを振りまいたりしませんように。微妙にリアリティがあるのが。なんとも恐ろしい。
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