<9・ダイホン。>

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 えみなと小説を書き始めた中学生時代。最初は、どちらもまともな小説なんて書けなかった。キャラの台詞ばっかり、しかも「」の前にキャラの名前を書くという、いわば“台本形式”でしか小説が書けなかったのである。  勿論台本形式で書いた小説なんか、公募で通るわけがない。  二人で合作した短編を試しに応募してみたところ、箸にも棒にもかからず落選。それなりに面白いという自負があったので担任の先生にヘルプを求めてみたら、それはもうにべもなく言い放たれた記憶があるのだ。 『いや、だって……台本形式だろう?こんなの下読みで落とされるに決まってるって』  台本形式は、小説扱いされない。  もっと言えば小説をまともに書けない人が書く“台本形式”は台本としても成立していないのだ。舞台やドラマの“脚本”ならば、台詞だけで状況をある程度説明させる技術や、動きを説明するだけの上手なト書きを書き添えるものなのだから。小説形式が書けなくて台本形式に逃げているだけの人間の作品が、台本形式としても評価されないのは至極真っ当なことなのである。  悔しくて、二人でいろんな本を読んだ。  実際一般書店で売られている本は、児童書でさえ台本形式であるものは一つもなかった。 『どうすれば、台本形式を脱出できるんだろう?』  えみなとそう考えて、首を捻った記憶がある。 『ほっとくと、キャラ同士でずーっと喋っちゃって、どうにも途切れないというか、途切れさせたくないというか。……ト書きで何書けばいいのかもわかんない。●●が言った。●●が話した、以外に書くことってあるのかしら?』 『……わかんない。もっと本読めば、そのへん理解できるかなあ』 『あたし達、やっぱ勉強不足ってやつ?……もっと本読まないと駄目ね』  あの時、自分達はどちらも同じスタート地点に立っていたはずだ。同じことで悩んで、首を傾げて、迷って。 ――ううん、今は、えみなのことで悩むより、前を見ないと。……でも。  それはそれとして。  台本形式ではないもので小説を書けるようになったものの――自分は根本的なところで、それ以上先に進めていないような気がしてならないのだ。  気を抜けばどんな小説も台詞だらけになってしまう。その悩みは、未だに抱えているところであるのだから。 「……全部台詞で書けたら楽なのに、とか思っちゃって。いつも、ト書きで何を書くべきか、書かざるべきかってあんまり考えてなかった」  ぱく、とチーズの塊を口に入れて言う藍子。 「先生も、最初は台本形式でお話書いちゃったりしてました?」 「していた。小学生の時から小説書いてるからな。最初はみんなそんなもんだ」 「そんなもんなんだ」 「ああ。台詞を書く方がずっと楽だったからな」 「そっかあ……」  なんだ、有名な“桐原ミカ”先生もそうなのか。  そう思ったら、少し気が楽になった。 ――一歩ずつでいいんだ。みんな、同じところで躓いて、それから前に進んでいくんだから。
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