<10・サクゲキ。>

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 それこそ極端な話、タイチとエリカの説明は必要でも、一緒に行くマナとケータは名前と顔が一致して性格が把握できれば十分くらいだったのてはないか。特にマナは、禁域に踏み込む前にいなくなってさっさと惨殺されるというポジションなのだから。  勿論これは、マナの死をみんなが悲しんで、視聴者にも同情してもらいたいと考えるなら話が変わってくることになる。マナがいかに魅力的な人物なのかを解説し、感情移入させ、丁寧な死亡フラグを立ててから殺さなければいけない。  が、この話は感動モノのドラマではないし、マナのポジションと性格も“お調子者で真っ先にうかつな行動をとる女の子”でしかない。むしろ彼女の役目は、残酷に殺されて皆に恐怖を植え付けることであったはず。だったら彼女がどのような夢を持っていて、どのような趣味があって、誰の事が好きで嫌いで――みたいな話に尺を使うこともなかったはずだ。  それはケータにも言える。中盤で殺されるケータも、酷い言い方をするならばタイチとエリカを追い詰めるための材料でしかなかったはずだ。 「食事シーンが特にやけに長いなーって感じて。料理が美味しそうだったのはいいけど、これ料理ドラマじゃないし、料理に纏わる特別なエピソードがあったわけでもないし。なんていうか、やけにビール映す画が多かったのも、あれスポンサーの都合じゃないの?とか思ったら萎えちゃって」 「そうだな。……実は原作では、話の順番やテンポが大きく異なってるんだ」 「そうなの?」 「ああ。ネタバレすると、冒頭からいきなりマナの処刑シーンが始まる。で、“何でこんなことになったのか?”を説明させるために少しだけ時間を巻き戻して解説していくという手法を取ってるんだ。つまり、最初からいきなりホラーのアクセル全開というわけだな」  驚いた。  確かに、映像化する際は大きく改変することもあると聞いていたが――まさか、そんな派手にシナリオの演出を変えていようとは。 「恐らくこれには、大人の事情がいくつも絡んでくる。例えば……さっき三木さんが言ってたけど、食事シーンがやけに長かったのは、ビール会社のスポンサーがついていたのがでかい。なるべくビールの缶が映るカットを増やしたいという意図があったんだろう」  それから、と彼は人差し指を立てる。
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