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「話の順番。冒頭でいきなりショッキングなシーンを出さなかったのは、話の前後がわかりづらくなって視聴者を混乱させるから……と考えたのだろうと予想できる」
「まあ、それはわからなくもない、けど。でもその結果、オバケも出ないし怖いことも起きない、怪談も出てこない……みたいな日常風景だらだら続けられたら飽きるんじゃ?」
「まったくその通りだ。実際、小説の方は最初でぶんなげられないために、いきなりショッキングシーンから入ったんだろうな。確かに時系列が一度巻き戻る分混乱はさせる。しかし、最初からホラーシーンが来ることで視聴者を飽きさせずに読ませる導線にはなるんだ。平和な日常風景がいかにして壊れ、あの恐ろしいシーンに繋がってしまうのか?一種ネタバレすることで、それを知りたいと読者に思わせて読み進めさせるとでも言えばいいか。……映画にして、それをなくしてしまったせいで、“いつになったら怖い話になるんだ”と飽きさせる原因を作ってしまってるわけだな」
「それは……ちょっと残念だなあ」
勿論、時系列を戻すやり方が必ずしも正義ではないが。
作者が意図したことを覆し、序盤をだらけさせてまでやる必要があったかどうかは疑問である。ましてや、スポンサーの都合で原作より食事シーンを無駄に長く描写するなら尚更に。
「まあ、これは映画だから、という驕りもあったのかもな」
ぶす、と自身もコーヒーゼリーにスプーンを突き刺す帝。
「だって金払って映画館に入ってるんだぜ?序盤がちょっと退屈でも、それで立って出て行こうって勇気のあるやつは少ないだろ。寝る奴はいるかもしれないけど、少しでも金もったいないって気持ちがあるなら最後まで座ってみるはずだ」
「あー」
「ドラマだったらこうはいかないだろうな。無料で見られるんだからやめてもデメリットがない。つまらないドラマは一話の最初の十分で切られるのも珍しくない。動画配信サイトの動画も同じ」
「あーあーあー……」
「小説も、買ったなら仕方なく最後まで読むかもな。ただし、公募の審査員にそんな義務はないから、序盤でダレて面白くなかったらそこでハイ終了ってなもんかもしれないが」
「あーあーあーあー……」
耳が痛い。素晴らしく耳が痛い。
同時に、“映画会社の大人の事情”なんてものは、視聴者にとってはまったく関係ないものなんだなということも痛感させられる。
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