<1・ウラギリ。>

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『あたし達二人で書いたっていうけど、アイデアとかあたしがほとんど考えたんじゃなかったっけ?藍子ちゃん文章全然だめで、あたしが結構誤字脱字とか直した記憶あるし。頑張ったのあたしの方なんだから、あたしが一人で作ったようなもんよね。それを、まるで二人の宝物みたいに言うとかさあ、何様のつもりなの?その話出るたび、ずーっとうざいって思ってた』 「な、何、言って……」  彼女が言っていることが、わかるようでわからない。何かが足元から、ガラガラと音を立てて崩れていくのを感じる。 『そもそも、中学生の時に書いたガラクタみたいな話を、あたしがリメイクして何か問題あるの?ノートからワードに打ち直して、色々細かく修正してさあ、めっちゃめんどくさかったんだから』  ガラクタ。  彼女ははっきりと、藍子にそう言った。 『中学生の時の物語のままで、公募の一次通ったと思う?無理でしょ無理。通ったのはー……あたしが頑張って頑張って推敲したおかげ。つまりこれはもうあたし一人の作品なの。だからまるで盗作したみたいな物言いされるのはすんごい腹立つっていうか、ありえないから。なんでそんなこと言われなきゃいけないのってかんじ』  頬を、温い雫が伝っていく。  反論しなければいけないとわかっていた。それなのに、うまく言葉が出てこない。  心臓がギリギリと万力で締め付けられているかのように痛む。頭の奥を金槌で叩かれているかのよう。彼女の言葉が耳に入ってこない。目の前が真っ暗に染まっていく。 『これはあたしの作品で、あたしの実力。それ以上あんたに言うことなんてないから』  じゃあね。  もうかけてこないでね。  そんな非情な言葉とともに――電話は切られた。 「う、あ……あああああ……」  なんで、こんなことになったのだろう。子供の頃のキラキラした思い出に罅が入り、ガラス細工のように砕けていくのを感じる。 「あああ、ああああああああああああああああああああああああああああああ……!」  藍子はその場で蹲り、慟哭した。  作品を勝手に使われたことより――ずっと積み上げてきたと思っていた友情を裏切られたことが、何よりもショックだったがゆえに。
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