<10・サクゲキ。>

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 別に大人の事情で何かが変更になってもいいのだ――原作者の許諾を得られるのであれば。ただ、視聴者に“これ大人の事情だろ、面白くするための変更ではないだろ”と悟らせてしまったら失敗なのである。  こういうのは、自分も気を付けなければいけない。  それこそ“男性受けをよくするために巨乳ヒロインを無理やりねじ込んだんだろ”とか“BL好きな女子を引っ張り込むためにイケメン兄弟をキャスティングしたんだろ”なんて思われたら、見る人間を激萎えさせてしまうのだ。勿論、そういうのを全て回避することは不可能だが、悟らせない工夫は確かに必要なのだろう。 「……でも、いいところもあったと思う」  コーヒーゼリーを掬い上げつつ言う藍子。 「森の中を進んでいって、いつの間にかマナがいなくなってるところとか。あのメンバー、みんなそれなりに仲良しだし、酔っぱらってるからうきうきと歌いながら進んでいくじゃん?それなのに……マナ一人だけいなくなってることに、私はすぐ気づかなかったんだよね。本当に、さりげなくいなくなってた。他の登場人物たちと同じように」 「そうだな」 「それから、例のマナ処刑シーンとか。あれ、本当に殺してるわけないから特殊メイクとCGだと思うんだけど……本当に殺されてるみたいで、すごく怖かった。役者さんの演技もそうだし、カメラアングルとか拷問の方法とか……自分が拷問されてるような気がして、お腹とか痛いような気がしてきちゃって」  そう、“ホラー”が始まってからの映画は非常に秀逸だったのだ。  マナは祭壇のような場所で十字の棒に縛り付けられ、黒く鋭い爪を持った人影のようなものに襲われる。他のメンバーは金縛りにあったように動けず、彼女の悲鳴も姿もわかるのに近づくことができないのだ。  怪物は彼女の右肩をゆっくりと捻り上げていく。おかしな方向に曲がっていく腕から骨が砕け、皮膚を破って突き出してくるのだ。マナ役の女優の演技がまさに秀逸で、本気で痛くて苦しくて泣き叫んでいるように見えるのである。右腕がぐちゃぐちゃになったら左腕、さらには左足、右足もねじられてぐちゃぐちゃに砕かれてしまうのである。  その上で、彼女の鳩尾あたりに爪を突き刺し、真下へとゆっくりゆっくり引き裂いていく絶望。足元には、彼女が恐怖で漏らした尿だまりが広がり、そこに真っ赤な血の雫がぼたぼたと垂れ流されていくのだ。
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