<10・サクゲキ。>

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 ぶちゅり、ぶちゅりと飛び出してくる臓物。腸を引きずり出され、それを生きたまま食われて――彼女は地獄の苦しみの中命を失っていく。彼女の腸をぶちゅぶちゅと噛み潰しながら黒い影の怪物が振り返り、一歩、タイチたちの方へ歩み寄ってくる。  そこでタイチはやっと金縛りが解け、あとの二人に“逃げろ!”と叫ぶことができるのだ。 「あれは重要なシーンだった。彼等が一番最初に、自分達がこのままでは殺されるかもしれない……というのを意識させたシーンでもあったしな」  うんうん、と頷く帝。 「さっきも言ったが、“殺されるかもしれない”は人間として避けて通ることのできない、根源的な恐怖だ。ホラーというのは、見ている人間を没入させ、どこまでも“自分だったら怖すぎて耐えられない”と思わせれば勝ちとも言える。もちろん、恐怖を“何が起きてるかわかんなくて理解できない”が上回ってしまっては意味がないし、あまりにもリアリティがなくなってくると没入感が薄れてしまうという問題もあるが」 「殺されそうになる、というのを書いていけば怖いものができるということ?」 「死の恐怖だけじゃない。例えば、怪物がどこまでも追ってくる、逃げられないというのもわかりやすい恐怖だろう。あと、出口がない、どこまでいっても元の世界に帰れないというのもな。追われる、閉じ込められる、殺される。俺的に言えば、この三つのポイントをきっちり抑えれば怖がらせることには成功すると思ってる」 「ふんふんふんふん……」 「他にもあるかもな。ホラー書きがしたいなら、自分が何が怖いのか、何が起きて欲しくないのか絶望するのか……発見したら片っ端からメモしておくといい。怖いだけじゃなくて、生理的嫌悪を煽るのもいいだろうな。毛虫とかゴキブリとか蜂とか」 「うげ」  食事中なのに、とは思ったが言いたいことはわかる。藍子は思わず舌を出して呻きつつも、どうにか手帳にメモを取った。  創作は、面白い。一人で延々と書き続けているだけではわからなかったことがたくさんある。 ――この人に、アドバイス貰ったら……イケる、かもしれない。  まだまだ書籍化作家への道は遠いかもしれない、でも。  一つくらい、壁を越えられるだろうか。えみなへのコンプレックスも、己の実力も。
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