<11・プロット。>

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<11・プロット。>

 気づけば、日はすっかり傾いていた。  夕焼けに染まる駅のホームで、藍子は再び帝と共に電車を待っている。 「今日は、その……ありがとう」  とりあえず、礼を言わなければいけない。  まだ思い出すとヘコむが、少なくとも――彼と映画を見たりご飯を食べたり、アドバイスを貰っている間はえみなのことを忘れていられたのは確かだ。  もしあの時連れ出してくれなかったら、自分は部屋に閉じこもったまま本当に動けなくなってしまっていたかもしれない。 「そういえば、作家にとって一番の敵は自分自身とか言ってたけど、あれどういう意味?」 「そのまんまの意味だが?」  スマホをいじりながら帝はあっさりと宣う。 「逆に訊こう。書けなくなる、のはどういう時だと思う?俺の手が早いのがうらやましいといったが、どうすれば早く、安定して書けるようになると考える?」 「え、ええ……?」  改めて問われると、非常に難しい。藍子は腕組みをして、うんうんと悩んだ。  自分は、頑張ってもひと月で八万文字程度が限界だ。  当初は執筆に専念できる環境さえ整えば、時間さえあれば書けるようになるだろうと踏んでいたが。 「時間が無限にあれば書けるようになるなんて、そんなことはない。お前もそれはもうわかってるだろう?人間の脳はそんな連続稼働できるようになっていない。一時間みっちり執筆したら、暫く休まないと疲れて次の話に着手なんかできやしない。だから今日は三時間執筆できる時間があるぞと思っても、三時間ずっと執筆していることなんか物理的に不可能なんだ」 「それは、そうかも……」  仕事がない日で、今日は時間があると思えばその時間をなるべく有効活用したくなるのが人間だ。  三時間あるならその時間を全部使えば何文字書けるはず、なんてそう思ってしまう。しかし、実際は当初予定していたより全然書けなくてがっかりするなんてこともしばしば。そればかりか、書かなければいけない時に限って眠くなってしまったり、漫画に手がのびてしまったり。  それは単に集中力がないから、と思っていたが。 「小説を書くというのは想像以上に脳のカロリーを消費する。だから、一時間書いたら最低でも十分、本音は三十分以上は休憩するか、別の作業をするべきだというのが俺の考えだ」 「そんなに休んでたら、時間もったいなくないの?」 「逆。無理に頑張っても作業効率が落ちるだけ。かえって残る時間を無駄にすることになる。おすすめはYouTubeだな、動物の動画とか見ると疲れが吹っ飛ぶぞ。あとは、頭が覚醒するという意味ではゲームの実況とかも悪くないな」 「へえ……」  そのへんは、気が散るからむしろ見てはいけないものだと思っていた。  こまめな休憩を取る。  むしろそれが、時間を効率よく使うためのコツであるとは。
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