<11・プロット。>

2/4

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
「純粋にタイピングが早くなるようにするのも手段としては必要だな。正直、作家としてやっていきたいならブラインドタッチは必須レベルだろう」  それはそうだ。  いくら作品を思いついても、それを書くスピードが追い付かなければ本も子もないわけだから。 「しかし、打つ速度そのものは早いはずなのに、手が止まってしまって全然執筆が進まないという声もよく聞く」 「あ、うん。私それ」 「お前も家でパソコンで仕事できるなら、それなりに打つ速度はあるんだろうしな。もちろん、手が止まるのが悪いわけじゃない。ただ、何度も何度も手が止まりすぎてちっとも進まない人間には主に二通りいると俺は思ってる。一つ目は、なかなか次に書くべきことが思いつかなくて手が止まってしまうタイプ。もう一つは、余計なことばかり考えて手が止まってしまうタイプ」 「えっと……」 「わからないか?」  ぶっきらぼうでいて、案外口調は優しい。  上から目線なんてことはなくて、本当に藍子を助けたくて言ってくれているのが伝わってくる。 「昔話の桃太郎を例に出すか。おじいさんが芝刈りに、おばあさんが川で洗濯をする、そこで話が始まる。その後、彼等のところに桃太郎が現れるわけだが……桃太郎がどんな登場の仕方をするか、どのような主人公として成長するかが決まっていなかったら、二人の日常風景を描いたところで考え込んでしまうだろう?」  それは間違いなくそうだろう。  仮に、桃太郎と言う名前が決まっていて、彼が最終的に鬼を退治してみんなを救う英雄になる!というプランがあったとしてもだ。彼がどのように誕生したのか、そこが決まっていなければ間を繋ぐ部分がない。どういう風に生まれればインパクトが生まれるのか、考え込んでしまうのは必至のはずだ。 「実は、結末さえ決めていなくても話を書き始めてまとめることができるタイプの作家もいる。いわゆる、ノープロット一発書きタイプの作家だな。プロットを書いた方が基本的にはいいはずだが、中にはプロでもプロットなし一発書きの方がうまくいくような人間もいるんだ」 「ええ、何も決まってない状態で書き始めて、なんでそれでうまくいくの?書いてる途中で手が止まりまくる未来しか見えないんだけど」 「簡単だ、書きながら次の展開をどんどん決めていくからだ。世の中にはそういうタイプもいる。つまり、書きながら読書する感覚で小説を執筆するとでもいえばいいか。いきあたりばったりを楽しむし、それが即筆に乗るからさほど執筆速度がブレない。むしろプロットを書く時間を執筆に全部乗せられる分、書くのが速くなるまである。……こういうタイプの人間は、簡単なメモ書きは必要だとしても、詳細なプロットは書かない方が良かったりする。そもそもプロット書いたところで、新しく思いついた展開でどんどん上書きして逸れていったりするものだからだ」
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加