<11・プロット。>

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「お、おうふ……」  そういえば、と藍子も思い出す。  かつてえみなと二人で小説を書き始めた頃。そしてどうにか台本形式を脱出できたくらいの頃に、一度“なんにも設定決めないで、いきあたりばったりのリレー小説をしてみようか”なんて思って二人で試したことがあったのだ。  結果、あっという間に頓挫することとなった。  相手がどのようなボールを投げてくるか予想ができないし、自分もどのようなボールを打ち返すのがベストなのかもわからない。何も決まっていないから何をやっても自由なはずが、どうすれば面白くなるのかがまったくわからない。  結果、お互い手が止まりまくり、散々ぐだぐだな展開になった挙句に強制終了とあいなったのだった。――今思うと、ヒロインがピースしながらマグマに飛び込むという、意味不明なところでエタらせてしまったのは非常に申し訳なかった気がしないでもないが。 「とはいえ、こういうことをやって話を破綻させず、安定した執筆ができ、かつおおよそ望んだ文字数で完結まで持っていける人間はそう多いものじゃない。というわけで、多くの人間は最低限の設定決めやプロットが必要ということになってくる」  こういうのな、と彼が見せてくれたのはスマホの画面。どうやら、彼が以前書いた小説のプロットのようなものらしい。  冒頭でヒロインが青い石を拾ったところから物語が始まり、その石を巡って謎の獣たちが襲来してくる。その時異世界の英雄が助けてくれて――みたいなあらすじがざっと書かれていた。  これは、読んだことのある話だった。  ブループラネット・ファンタジー。  ホラー作家として有名な“桐原ルカ”としては珍しい、現代ファンタジー長編である。彼は時々はこういうファンタジー系の話も書くのだ。 「簡単なあらすじや設定だけで問題ないんだ。もちろん詳細なプロットを書く人もいるし、もっとざっくりとしたメモ書きだけやる人もいる。確かなことは、少し先の展開をメモしておくだけで、“何を書くのか思いつかなくて手が止まる”という事態を防げるということ」 「さっきの桃太郎で言うなら……桃太郎が桃の中に入って、川をどんぶらこと流れてくる、というところまで決めておくってことか。そうすると、執筆しながら考えなきゃいけないのは、桃を拾ったおばあさんがどういう反応をするかとか、どういう風に会話して成長していくかとかそういうことだけになるから……」 「思いつかなくて手が止まる、を防ぎやすくなるってわけだな」  確かに、そう考えるとプロットは大事かもしれない。  いや、プロットを書いたことは藍子だってあるのだ。しかし、いつも自分のプロットは必要最低限で、はっきり言って意味を成していなかったのだなと思い知らされる。それこそ、始まりと結末くらいしかちゃんと書いていないものを、プロットと読んでいいかは怪しい。
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