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多分あれは、完結させる努力ができなかった者――スタート地点に立つことさえままならず、腐り果てた者の末路なのだろう。
「面白いものが書けなかったと思ったら、そいつをリメイクしてもいい。面白くないと感じた点を後で修正してもいい。新作に、その反省を生かしてもいい。……だから書いてる最中で、面白くないかもしれないとか、読者に評価されないかもしれないなんて邪念は捨てるべきだ。まずは完結させることを優先させる。それだけで、手が止まるようなことは避けられる」
「……はい」
「言うほど簡単じゃないのはわかってるつもりだけどな。そういう心がけは大事、ってことだけでも覚えておけよな。……そうやってたくさん積み上げていったものは、あんたを絶対に裏切らない。どんな形であれ、報われる日が必ず来る。俺は今までそう信じてきて、この考えが間違いだったと思ったことは一度もない」
「……うん」
今をときめく若手の新星、“桐原ミカ”でも悩んだことがあったのだろうか。入ってくる電車を横目に彼の顔を見つめれば、帝は呆れたように肩をすくめた。
「言っただろ、俺は小学生の時から書いてたんだぞ。実際デビューできるまで十年くらいはかかってんだよ、書き始めてから。当然、中学生高校生で書いた作品なんかみんな箸にも棒にもかからなかったしな。最初から受賞しまくれる天才なんてほとんどいないんだって」
「スランプになったことも?」
「あるある。……だから、ワナビの気持ちだって結構わかってるつもりだし」
なんとかなるって、と彼は少し照れたように視線を逸らしながら、藍子の肩を叩いたのだった。
「見返してやるんだろ、星河エミナを。……次は、あんたの作品読んで感想言ってやる。まあ、甘い評価は出さないけどな。勝つんだろ、あんたのアイデアを奪った奴に」
「……うん、そのつもり」
ありがとう、と。もう一度繰り返した。
出口のない迷路に、少しだけ光が差し込んだ気がする。まだまだやっと、スタートに立ったばかりではあるけれど。
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