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<2・ガラクタ。>
暫くは、何も手につかなかった。
――なんで。
えみなも、悩んでいたのかもしれない。ギリギリ一次通過できるかどうかレベル、でずっと彷徨っていたのは藍子と同じであったのだから。しかも中学生時代から小説を書き始めて、社会人の今に至るまでネタというネタを出し尽くしていたというのもあったのだろう。
何を書けば夢が叶えられるのかわからない。
どうすれば選者の心を掴めるのかがわからない。
トレンドに沿ったものも書いたつもりだし、自分なりのオリジナリティも模索した。それでも鳴かず飛ばずだったことで彼女も焦ったのかもしれなかった。でも。
――だからって。よりにもよって一番大事なあの作品を……無断で、自分のものとして持ち出すなんて。
『あたし達二人で書いたっていうけど、アイデアとかあたしがほとんど考えたんじゃなかったっけ?藍子ちゃん文章全然だめで、あたしが結構誤字脱字とか直した記憶あるし。頑張ったのあたしの方なんだから、あたしが一人で作ったようなもんよね。それを、まるで二人の宝物みたいに言うとかさあ、何様のつもりなの?その話出るたび、ずーっとうざいって思ってた』
『中学生の時の物語のままで、公募の一次通ったと思う?無理でしょ無理。通ったのはー……あたしが頑張って頑張って推敲したおかげ。つまりこれはもうあたし一人の作品なの。だからまるで盗作したみたいな物言いされるのはすんごい腹立つっていうか、ありえないから。なんでそんなこと言われなきゃいけないのってかんじ』
えみなはああ言ったが。
あの“流星のアルテナ”の原案は、藍子が出したものであったはずだ。
流れ星に乗って様々な世界を旅する妖精・アルテナの冒険譚。彼女の名前も、元となるイラストも(中学生当時の絵なので当然画力はお察しだが)、それから彼女がある惑星の王子に恋したがゆえに禁忌を犯して神様に追われる羽目になってしまうというストーリーラインもみんな自分が考えたものである。もちろん、そこにえみなが提案してくれた様々なアイデアで味付けしたのは事実だが、ほとんど彼女が考えたなんてことはけしてないのだ。
一番最初の第一話を書いたのも、藍子だった。
アルテナの設定とキャラの性格を説明し、物語の没入感を決める大事な序盤。一生懸命書いたとはいえ、ギリギリ台本形式を脱したレベルの非常に拙い文章だったが、それでも見せた時のえみなの笑顔は忘れられない。
『ここが、あたし達のスタートね!』
私が書いたアルテナの物語を、彼女はキラキラした目で何度も何度も読んでくれた。
『水の世界に降り立ったところで終わってるけど、この世界の名前どうする?テラ、とかだとちょっと無難すぎるかしら』
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