<14・ミリョク。>

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 多分それは、台本形式で書いていた時のクセがまだどこか抜けていないということなのだろう。  ト書きなし、カッコの前にキャラ名を書いてしまう通称・台本形式。小説として出版を目指すならそこから脱却することこそ最低条件と言えるのだが、これが思った以上に難しいことなのである。  というのも、人は会話は耳で聞いているので音として認識しているし書きやすいが、行動となると“どのように表現すればいいのか”で一歩足が止まってしまうものだからだ。  藍子のように、台詞と台詞の間に、どういったタイミングで表現を挟めばいいのかわからない、ほっとくとキャラがずーっと喋ってしまうというタイプもいるだろう。 『矢継ぎ早に台詞を書くシーンがあってもいい。でも、お前の場合は恵理子が襲ってきたシーン以外でも同じことをやっている。例えばゲームが始まってすぐに島袋(しまぶくろ)さんと会話をするシーンがあるが、彼はゆっくり喋る穏やかな老人なのに会話がやけに長く続いている。まだ由梨も、状況を把握していない場面で、あまり緊張感がない。もう少し感情を挟んでもいいはずだ』 ――な、なるほど。 『それと、一人称だからこそト書きで書くべき情報は多いはず。ただ状況描写を淡々と記すだけじゃない。忘れてはいけないことは、物語に出てくる風景、描写は全て“由梨の目を通して見たもの”という縛りが発生すること。裏を返せば、由梨が興味がないものはさらっと流し、興味を持っていたりまじまじと観察したものは細かく描写できる。同時に、それに対して由梨が“何を思ったのか”もト書きの中で書けるはずなんだ』  彼はそう指摘して、恵理子が襲ってきたシーンに関しても提案してきた。  由梨が森の中で恵理子に見つかり、襲撃を受ける場面。ここで、台詞以外に何を描写するべきなのか。 『あのさあ、ウロチョロウロチョロ、いい加減うっとおしーんですけどお?』  大坂恵理子(おおさかえりこ)。  そんな名札をつけた女性は、イライラした様子でこちらへ歩いてくる。 『いつまでもいつまでも逃げ回ってばーっかり。さっさと死んでくれなきゃ困るっていうか、あんた一人にいつまでも構ってらんないのよ。こっちは、一人でも多く、さっさと殺さなきゃいけないんだから!』 『な、なんでわたしなんですか!なんで、どうして!?』 『はあ?』 『わ、わたし、あなたのことなんか知らない!このゲームで会ったばっかりで、なのにどうして殺されなきゃいけないのかわかりません!』 『はああああああああああああ?あんた、馬鹿じゃないの?ゲームのルール聞いてなかったわけえ?』  彼女は呆れ果てた声で言った。
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