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『うーん、そうだなあ。……あ、そうだ。世界の名前に統一感もたせたら面白そうじゃない?今のうちに、いろんな世界のアイデア出しておこうよ。王子様に出会うのは中盤にするんだし、それまで他の世界のエピソード回しておきたいし』
『お、いいね藍子。どんな共通点がいいかな?』
『そうだねえ……』
一番最初のに出てくる水の世界。その時私が思い出したのは、最近図書室で借りた本の存在だった。
それは、ポケット宝石図鑑。
子供でも読みやすいコンパクトな本で、女の子の多くが憧れるようなキラキラした宝石がたくさん載っていたのだ。
これがいい、と思った。
水の世界の名前に相応しいものは。
『……アクアマリンの、世界』
青く、透き通る、水に覆われた星。
海の底にいくつも酸素でできたドームがあって、そこに半魚人のような人々が暮らしているのだ。キラキラした水の天井の中で、たくさん魚が泳いでいて、時に異世界からの船が港に到着することもあって。
『アクアマリン、でどうかな。宝石の名前で、他の世界も統一するの』
私の言葉に、いいじゃん!とえみなは手を叩いて喜んだ。
『それ採用!じゃあ、あたしが次の話書く前に、他に登場する世界の設定どんどん決めちゃおう!』
『賛成!』
楽しかった。結局、作った“異世界”の多くはお蔵入りになってしまって、物語に登場させることができたのはほんの一部に過ぎなかったが。
それでも親友のえみなと二人、一つの物語を作り上げていく過程は最高に気持ち良くて、爽快で、達成感があるものだったのである。
最終的には、設定集も含めてノートを十冊も使う長編となった。
デジタル原稿ではないし、原稿用紙に書かれたものでもない。だから小説家になるために、どこかの公募に応募できるようなものではない。
それでも私達はこの物語が完結した時、手を取り合って喜んだものである。
『藍子ちゃんと一緒に書いてよかった!』
そう。
あの言葉を言ったのは、えみなではないか。
『このお話は……流星のアルテナは、あたし達の一生の宝物よね!将来悩んだ時も苦しい時も、このお話を思い出したら元気が出るような気がする!』
一生の宝物、ではなかったのか。
せめて、せめてこれを“自分の名義で発表させてくれないか”と一言言ってくれていたなら。
そして、“ガタクタ”なんて酷い言い方をしなければ。
きっと自分は彼女の通過を喜ぶことができたし、こんなにも傷つくことはなかっただろうに。
「あの、三木さん、大丈夫ですか?」
「え」
二日後、会社に出勤してそうそう後輩の一倉佳奈に心配されてしまった。
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