<17・ヒヒョウ。>

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 *** ――くそ……くそくそくそくそくそくそくそくそ!  苛立ちと共に、五里えみなはパソコンのブラウザを強引に閉じた。こういうことはするべきではない。わかっていても、自分のハンドルネーム“星河エミナ”で検索をかけてしまうのは己の業か。  大手文学賞、秋山ライト文芸新人賞で受賞した若手女流作家。そういう意味で注目されることはわかっていたし、嫉妬される可能性もあるとは知っていた。だから、多少叩かれたくらいではめげないつもりだったのだ。実際自分が、実力だけで評価されたわけではないことくらいわかっている。女性若手作家を押し出したい大御所作家のプッシュがなければ、受賞はきっと敵わなかっただろうことも。  それでもだ。  多少金賞などの作品に見劣りしても、自分は自分なりに精一杯頑張ったつもりだし、それだけのクオリティの作品を出して受賞したつもりでいたのである。アンチがつくことがあったとしても、それはあくまで若い女だから嫉妬されているだけ。書籍化できない素人どもの嫉妬などスルーしておけば良し、とこの時は思っていたのだ。  しかし。  最近は、その雑音を無視できなくなりつつあった。自分でもわかっていたからだ。電子書籍サイト“クリオネ”で連載開始した自作品、“テレポートブロック~終着地点~”。その評価が、毎週目に見えて下がっていっていることに。そして、下がっていっている原因に。 「ううううううううう、ううううううううううううううううううううううううううううっ!」  頭をがしがしと掻きむしり、パソコンの前に突っ伏した。もうすぐ、担当編集者の八谷(はちや)とオンライン会議が始まる。それまでに、この酷い顔だけでもなんとかしておかなければいけないというのに。 ――連載が、こんなにつらいなんて思ってなかった。  受賞する前から、WEBサイトで自作品を連載するということはしていた。  しかし趣味で書いている時は気楽だったのである。毎日、自分が書ける時に書けた分だけアップしていけばそれでいい。なんなら更新できない日があってもいい。読まれないのは悔しいけれど、読まれなかったり人気が出なかったりしたというだけで世間から派手に叩かれるということもない。過激なアンチや批判が出ることもない。  早く書籍化して作家になりたい焦りこそあったものの、攻撃されるかもしれないストレスや期待に応えられないかもしれない恐怖はなかった。そういうものが存在するということさえ知らなかったほどだ。  今は違う。  自分は、まがりなりにもプロとしてお金を貰って連載をしている。書けませんでした、思いつきませんでしたじゃ話にならない。だから必死で、毎日原稿を捻りだしているというのに。 「……っ!」  ぽろりん、と軽い電子音がした。はっとして画面を見れば、オンライン会議のための部屋が立ったことのお知らせ。
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