<17・ヒヒョウ。>

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 どれほど嫌でも、怖くても、これから会議をしなければいけない。たとえ担当編集者の彼女、八谷愛(はちやあい)にお叱りを受けるとわかっていてもだ。えみなは顔をごしごしと服の袖で拭って、サインインのボタンを押した。 『おはようございます、星河さん』  すぐに、黒髪におかっぱ、眼鏡の真面目そうな女性の顔が表示された。三十一歳、えみなと同年代。しかし今まで何人ものプロ作家の編集を担当してきた、この道十年近いプロだと聞いている。それだけに毎度、かなり厳しい意見を貰っていた。それこそ、秋山ライト文芸新人賞で受賞した作品に関しても、“このままじゃ到底書籍化なんてできませんよ”とドキッパリ言われてしまっている。  もっとも、連載の作業をしながらそちらの改稿作業なんて、今の状態ではとてもできるものではなく。現状、ほぼ完全に手が止まってしまっている状態なのだったが。 『朝早くからすみませんね。どうしても、急ぎお伝えしなければならないことがありまして』 「……はい、八谷さん」  八谷愛の顔は、先日オンライン会議で顔を合わせた時よりさらに厳しいものとなっている。やはり、先週の原稿の評価がかなり悪かったらしい。 『わたしは、星河先生が星河先生なりに、一生懸命小説を書いてくださっているのはわかっています。ですが……さすがに、前回の原稿は評価できるものではありませんでした。時間がなかったので、最低限の校正しかできずに出す羽目になったのも問題です。わかっていますね?』  ぎろり、とまるで睨むようにこちらを見る八谷。 『もう少し、時間に余裕を持って原稿を提出していただかないと困ります。しかも、最低四千文字は書くというお約束だったのに、前回は三千文字と少ししか分量がありませんでした。そして、話の進みも遅いとネット上では色々言われてしまっている……なんていうのは、星河先生も既にご存知ですね?』 「……はい」 『そろそろ、唯奈と真紀を次の世界に転移させましょう。彼女達はまだ、転移していけばもっと良い世界に行けるかもしれないと希望を抱いている段階です。サトヤからの忠告はありましたが、ご両親が宗教団体に攫われてしまった以上、この世界にいつまでも留まるのは危険だろうということもわかっているのですから。ですので来週にはブロックを踏ませましょう。いいですね?』 「ま、待って、ください……」  次の原稿でブロックを踏ませて次の世界に転移させる。ということはつまり、来来週には新しい異世界を描かなければいけないということだ。しかし。 「ま、まだ……次の世界のネタが、決まってなくて……」  地味に展開を引き延ばしているのはそれが原因だった。
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